トンボノート
No.853. ヒメサナエの産卵.2022.6.28.

もはや梅雨明けになったと聞きました.4年前だったかは,7月はじめに雨が続き,大変な事態になった記憶があります.今年は逆に晴れ続き,多分水不足になるのではないかなぁ.トンボにとっても,特に湿地性の種は危機的状況になるかもしれません.

さて,今日はヒメサナエを探しに行きました.以前の観察地が改変されてだめになってしまったので,新たな産卵ポイントを見つけるべく,動き回る予定でした.ところが,非常に幸運だったのが,最初の場所でヒメサナエのオスの集まっている場所に行き当たったのです.


▲ヒメサナエのオス.これは実は一番最後に撮影したもので,腹部挙上姿勢.


▲ヒメサナエのオスたち.全部で10頭以上は集まっていたと思う.

これだけオスが集まっていたら,必ずメスは来るという確信が持てます.メスはオスから隠れるようにして産卵するので,まわりが石で囲まれたような場所がポイントです.さらに流れの上に広葉樹が広がっていると最高です.まさに行き着いたのはそういう場所でした.周辺を探索してから,この場所に腰を落ち着けました.時刻は10:30過ぎです.一番産卵にやってくる時間帯です.

ちょっと立ち上がったときに,少し離れたところにメスが入りましたが,これはオスに持って行かれました.やはりこれだけオスが集まっていると,見つからずに産卵するのは難しいようです.私は,ここだと思うポイントに腰を下ろし,オスを追い払いながら「なわばり」を確保しました.ヒメサナエのオスが近くに止まると石を投げて水しぶきを上げ,カエルが跳ねたように見せかけると,オスは飛んで逃げ,まずしばらくは帰ってきません.ヒメサナエのオスとのなわばり争いです(笑).

すると少し向こうにオオムラサキが水を飲みに降りてきました.トンボ屋の私にとって,オオムラサキはなかなか出会えないチョウですので,これはゲストに記録しておこうと腰を上げました.


▲オオムラサキが吸水に降りてきた.

ところが物事は重なるもので,オオムラサキの方に移動しているときに,私が目をつけたポイントにメスが産卵に入りました.こちらが本命ですので,あわてて,写真を撮りに戻りましたが,シャッター速度を落としていたので,ブレが出ました.


▲オオムラサキを撮るためにシャッター速度を落としていたので,ブレた.

やはり慌てるとだめですね.これが11:00ごろです.しかしこれで2頭産卵に入ってきました.手応えは十分です.今度は気を抜かずに待つことにしました.すると,どこからやってきたのか,オオムラサキが私の腕に止まりました.こんな近くで見たのは初めてです.翅が少し破れていて,先のとは別個体のようです.写真に撮ろうと思いましたが,逃げられました.この近くにエノキの群落でもあるのでしょうか.

すると次はヒメサナエのオスが腕に止まりました.なんか,もう私は完全に「石」状態です.さて,次のメスが入ってきました.まさに私が目をつけたポイントです.11:15です.しかし,今度は気を張り詰めすぎていたせいか,私が敏捷な反応をしたためにメスに感づかれ,メスは少し離れたところへ移動して産卵を始めました.


▲3頭目のメス.速い流れの上で産卵をしている.

このメスは非常に短時間で産卵を終えて飛び去りました.というか,オスに見つかったみたいな感じで飛び去りました.どうもうまくいきません.落ち着いてしっかりとピントを決めて撮りたいのですが,久しぶりのヒメサナエで,ちょっと舞い上がっていたのかもしれませんね.しかしこの時期のヒメサナエのメスは淡色部の黄色が鮮やかです.いつもは7月10日前後に来ていますので,少し黄色が褪せてきたような感じになっています.

さて,11:23,メスがやってきました.やはり同じポイントに入ります.かつての観察経験が生きていて,メスの気持ちが読めているのですね(と勝手に自己賛美しています).今度は今までの失敗を生かしてゆっくりと攻め,いい撮影結果が得られました.


▲11:23メスが入ってきた.腹端に卵塊が見える.


▲このメスも比較的短時間で産卵を終えた.打水の瞬間はピンボケだった.

今日のメスはどの個体も産卵継続時間が短いです.まだ若くて,卵巣の成熟が十分進んでいないせいかもしれません.ヒメサナエは,ここと決めた産卵ポイントでは,ホバリングして卵塊を作り打水する,というのをその場で繰り返しますので,写真を撮ると同じようなアングルのものばかりになってしまいます.

さて,その後産卵は途絶えました.産卵時間帯が終わったのでしょう.今日はここまでとしました.ヒメサナエといえば一緒にいるのがオジロサナエですが,今日はほとんどその姿が見られませんでした,というか,まだ羽化しているような状況でした.


▲唯一見られたオジロサナエのオス.まだ淡色部が白っぽく成熟したての感じ.


▲流れから飛び立ったオジロサナエのメス,処女飛行.

オジロサナエもまた産卵ポイントを探す必要があります.こちらは7月の中旬以降でしょう.これで今日の観察を終え,帰りにコフキトンボの発生状況を見に行きましたが,今年はやはり数が少ないようです.ウチワヤンマやコシアキトンボ,もちろんコフキトンボも,35℃の炎天下で活動をしていました.いやはや暑さに強いトンボたちです.


▲水田の電気柵のポールに止まるウチワヤンマのオス.水田をなわばりにしている.


▲ため池の余水バケで産卵するコシアキトンボのメス.


▲コシアキトンボの産卵.

ここの余水バケに産卵に来るシアキトンボは同じ植物体にばかり産卵をしているようで,卵が新旧とり混ざってひっついています.ちょっと気持ち悪い.


▲色の濃いものが古いもの,真っ白なのが,今の個体の卵.

ということで,今日は非常についていた観察になりました.たまにはこんな日もないと面白くありません.今日はここまでです.