トンボノート
No.873. ウスバキトンボのマーキング調査.2022.9.3.

今,ウスバキトンボの国内での移動を調べるための,マーキング調査が行われているのをご存じでしょうか? NHKの番組「ダーウィンが来た!」で,ウスバキトンボを扱った番組が制作される予定で,その移動状況を,一般市民の力を借りてマーキング調査しようというものです.

ウスバキトンボは,太平洋を飛行して移動することで知られており,長距離移住者の代表的なトンボです.日本には,毎年春以降にやってきて数を増やし,どんどん北の方に広がっていきますが,日本では通常越冬できず,やがて死滅していくという,一見変わった生活を営んでいるトンボです.この日本国内での移動状況を調査しようというものです.

下記アドレスのWebページに,その協力案内が掲載されています.

★トンボ大調査 協力者募集します!★

こういったマーキング調査は,ウスバキトンボの移動範囲があまりにも広大なので,その成功が難しいとは思います.しかし,放送局が大勢の一般市民に募集をかけて実施しようとしているので,その再捕獲率が少しは上がる可能性があります.ご興味がある方は参加してみてください.

今の季節,9月上旬は,兵庫県あたりでは,ウスバキトンボは新しい個体がたくさん羽化して飛んでいる状況です.この時期にマーキングされた老熟個体を見つけるのは難しいかもしれませんが,逆にマーキングするにはチャンスです.あらゆる場所で,たくさんのウスバキトンボが群れて飛んでいます.

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ところで,ウスバキトンボは,絶滅に向かって北へ移住をするという行動が私たち日本人の興味を引くからでしょうか,不思議なトンボとされています.しかし,絶滅して子孫を残すことができないような遺伝的行動形質が進化することはない,と言ってよいでしょう.進化は,その行動をとることによってより多くの子孫が生き残り,それゆえその行動がより多くの子孫に受け継がれ,やがて,その種全体がそのような行動をとることが一般的になる,といった過程を経て起きるものだからです.これが自然選択です.

ウスバキトンボがなぜこのような行動を進化させたかを知るためには,本来の生活場所やその環境を知る必要があります.本来の生活環境下で,この「絶対的移住(生活史に組み込まれた移住)」がより多くの子孫を残すのに有利であることを知る必要があるはずです.しかし,私の知る限りにおいて,この点について一般の方々に向けて解説した文章はほとんど見当たりません.もちろん専門書には,それなりの考え方が記されてはいます.そこで,当サイトで,その考え方を紹介することにしました.すでに公開してから数ヶ月が経っていますが,興味ある方は下記のページを参照してみてください.

神戸のトンボ:ウスバキトンボの話

この番組を通じて,ウスバキトンボの国内での状況が少しでも解明されることを期待しています.