新 トンボ歳時記
No.402. マダラナニワトンボの観察.2012.10.13.

今日は,友人と共に,マダラナニワトンボの観察に出かけました.絶滅危惧種(CR+EN)のマダラナニワトンボは,1990年代に一気に減少してしまい,21世紀に入ってからは,本当にわずかの生息地が残されていただけでした.それらの生息地も,今では姿を見ることができなくなっており,兵庫県では絶滅寸前状態です.この生息地は,友人が2年ほど前に見つけたところで,まだそこそこの数が残っていますが,可能性として,ここは兵庫県最後の生息地かもしれません.

池に着いたのは9時53分.この生息地には,同じく絶滅危惧種(CR+EN)のコバネアオイトトンボもいます.池に入ると,早速コバネアオイトトンボが出迎えてくれました.

さて,池に入ったものの,まだマダラナニワトンボは全く姿を見せていませんでした.風がやや冷たく,日射しもまだ暑いというほどではありません.池ではネキトンボのオスが,飛んだり止まったりして,活動を開始していました.そして10時33分,ネキトンボのペアが産卵に入ってきました.

ネキトンボは続けて合計3組産卵に訪れました.単独で産卵に入ったメスもいました.これは3頭のオスに追いかけられ,上空高く逃げてしまいました.私たちは,池をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら,マダラナニワトンボを待ちました.でも11時が近くなってきているというのに全く姿を見せません.数が減ったのかなどと少々不安になりながら,待ち続けました.そんなとき,池岸の木の枝先に,オスが1頭止まっているのを発見しました.

やってきました.オスは,ふつうこのように,まず高いところから池を見渡します.このときメスも高いところから池を見下ろしていたりしますが,今日はメスは目につきませんでした.このオスが池に降りてくれば,なわばり活動が開始され,いよいよ繁殖時間帯になります.

10時59分,1頭のオスが池に入り,草の枯れ茎に止まりました.見上げると,枝先に止まっていたオスがいません.おそらくこのオスが降りてきたのでしょう.このオスは少し飛んでは止まり,場所を移動しながら,飛び回っていました.でも,降りてきたのはこのオス1頭だけ.まだ池には,繁殖活動が始まったという気配はありません.待つこと約30分,やっとのことでホバリングするオスが現れました.11時30分で,時間的に通常より少し遅れているという感じです.

でも,今度は,1頭だけということはなく,3頭も4頭もあちこちでホバリングを始めました.これで今日は産卵にもお目にかかれそうな予感がしてきました.しかし,待てども待てども,産卵のペアはやって来ません.時計を見ると,時間は5分も経っていませんでした.待っているとなかなか時間が長く感じられるんですね(笑).そしてついに11時53分,産卵に入ってきたペアを見つけることができました.

最初は1ペアだけでしたが,写真を撮っている間に,だんだんと数が増えてきました.時刻は12時を過ぎました.いよいよ産卵のピークにさしかかりました.

マダラナニワトンボは,リスアカネやナニワトンボと同じく,1粒ずつ卵を落としていきます.上下動も少なく,ゆっくりとした産卵に見えます.

観察ポイントは池の北側に当たるので,トンボが池の方に出ていくと完全な逆光になってしまいます.そのためにストロボで撮影していた(つもり)だったのですが,知らぬ間に電池が切れていて,完全逆光の状態で撮影していました.備えは万全にしないといけませんね.

まあ,でも,逆光の写真も,趣があっていい,ということにしておきましょう.しばらく産卵を続けていくと,オスはメスを放して,警護産卵に移行することがあります.放されたメスは,そのまま産卵を続ける場合もありますし,一気に上空に舞い上がって,逃げてしまうこともあります.上昇するメスを,他のオスたちが追いかけていきます.最後の方に産卵したメスは,連結を解いた後バラの茎に止まって,遊離性静止産卵をちょっとだけ行っていました.

さて,最後のメスを見送ったのが12時30分.最初のペアが産卵に入ってきてからわずか37分,池が一気に静かになったように感じられました.オスたちも知らぬまに数が減り,目の前のオスも樹上へ上がるような飛び方をしています.どうやらもう終わりのようです.私はストロボの電池を取り替え,12時45分,また池に入ってみましたが,もうオスの姿もほとんどなくなっていました.日射しは少し傾き,早や午後の雰囲気になってきています.本当にアカトンボの産卵は一気ですね.

ここの生息地のマダラナニワトンボは,おそらくこの個体群内だけで繁殖を繰り返しているのでしょう,もし過去のどこかで個体数のボトルネックがあったとしたら,遺伝的にかなり均一化されていることになり,それがこのような同調的な産卵時間帯という現象になってきている,と考えることも可能かもしれません.


さて,友人達も別のところへ行くようです,私もここを離れることにしました.次に行くところは,またまたコバネアオイトトンボが見られる場所です.これも,この友人に教わったところです.以前出かけたときは姿を見ることができなかったので,もう一度詳細情報を教えてもらって,出かけることにしました.

現地に着いたのは14時を回っていました.空も雲が全天をおおうようになり,太陽が顔を隠してしまいました.でもご覧のように,コバネアオイトトンボがいました.写真の銅色のメスは時々見られますが,このように明るい色をした個体はあまり見られないような気がします.そして,ついていることに,すぐに産卵のペアがやってきたのです.曇っていても産卵! ラッキーです.

ということで,ここでしばらくコバネアオイトトンボを観察し,空模様も怪しいので,ここで切り上げることにしました.今日は友人のおかげで充実した観察が行えました.感謝感謝.なお,今回は,友人の貴重な観察地なので,生息地に関する情報や写真等は掲載しないことにしました.