続 トンボ歳時記
No.582. ムカシトンボの観察.2018.5.11.

今日は兵庫県は全域的に快晴.こんなときは北部へトンボを見に行きます.今日のねらいはムカシトンボ.15日前後が一番ジャストな日程ですが,来週は所用でなかなか遠くへ出られないため,ちょっと早い気もしましたが出かけることにしました.あわせて,ホンサナエも終盤に入りますので,ビデオで卵塊形成を記録しておくことにしました.ムカシトンボは昼頃,ホンサナエは夕方と,時間的にはぴったりです.

現地に入ったのは8:30くらいでした.気温はまだ15℃くらいでしたが,太陽の日差しが強く,十分な暖かさです.9:00ころ,最初のオスが入ってきました,ムカシトンボももう繁殖シーズンに入っていたようです.例によってオスの探雌飛翔を記録しました.最近乱視が進んで,ピントが合っているのを確認しづらく,ピンボケの山でした.

▲探雌飛翔をするオス.

▲飛翔するオスたち.合計3頭くらいの異なるオスである.

そんなとき,1頭のオスがメスを捕まえ,はるか樹上に飛び去るのを目撃しました.メスも産卵に出てきているようです.でもオスよりこちらが先に見つけないと,記録はできません.あちこち歩きましたが,その後,なかなかメスに出会えない時間が流れていきました.流れの横に座って,昼食を取って,臨戦態勢に備えました.12:24,1頭のメスが目の前の苔むす岩にもぐり込み,産卵を始めました.このメスは腹部がやや細く感じられ,成熟したての若いメスのようです.

▲産卵を始めたムカシトンボのメス.ジャゴケに産卵している.

このメス,岩に絡みついている枯れ茎や,小さな草の間に器用にもぐり込んで産卵をしています.本当にもぐり込むという感じがぴったりで,絡みつきながらの産卵でした.この場所には立派に生長したフキがないので,フキの茎に産卵するというような写真が撮れません.最近はいつもジャゴケなどに産卵しています.

▲草の中にもぐり込むようにして産卵をしている.これではオスも見つけられないか.

産卵は延々と続き,メスは草に絡みつきながら,いや「つかれながら」,あちこちに卵を産んでいきました.アクロバット的な姿勢で,本当にていねいに産卵しています.あまりに長いので,写真を撮るのは早々にやめて,ビデオカメラを回してみました.

産卵の仕事は本当に疲れるようです.14:12,ついに産卵する動きを止め,腹部をジャゴケから離して,しばらくじっとしていました.疲れを取っているのでしょうね.シーズンの終わりになって,老熟したメスが,産卵後ポタリと下に落ちることがあります.これは相当の疲れが原因なのではないかと想像します.そしてしばらくして,翅を震わせて,飛び去りました.

▲産卵を終えて,だらんと腹部を下げ,休息するメス.

さて,1時間48分にわたる産卵の全過程を観察できましたので,今日の目的は達成できました.でも帰ろうかと思っていると,またメスが入ってきました.産卵植物を物色するような動きを見せ,ピタッと止まって,また産卵を始めました.ただ,このメス,場所が気に入らないのか,すぐに飛び立ち,どんどん上流へ飛んでいきました.普段なら追いかけますが,今日は疲れてしまったのと,この後の予定があるので,これで終わりにしました.

▲もう一つのメスが,産卵する植物を探して飛んでいる.

▲産卵痕が見える.短時間産卵した後,飛び去った..


さて,場所は変わり,ホンサナエの観察です.現地に入ったのは16:00過ぎでした.まだまだ太陽の日差しは強い状態です.しかし涼しい風が吹いていました.夕方の気配が迫っているようです.今日はビデオを回すので,準備をして,川に近づきましたら,早速土手の草の上で卵塊をつくっているメスを見つけました.ただこのメスとても神経質で,5mくらいに近づくと,飛んで逃げます.トンボにも個性があります.有名なトンボ屋さんが言っていましたけど,トンボの撮影のコツは,逃げないトンボを探すことだ,というのは,まことにその通りです.

▲ホンサナエのオス.16:00ころ,ビデオからの切り出し.

オスはかなり数が減っていて,前回来たときよりも,この時刻に飛んでいる個体が少ないように感じられました.もうシーズン後半なのかもしれません.16:33,卵塊づくりにメスがやってきました.この個体も敏感で,ちょっと動くとすぐに飛んで移動します.やっとの事で撮影できる位置に近づけました.三脚が立てられない場所だったので,一脚状態で撮影したため,映像が揺れていました.その中から一コマ切り出して掲載しておきます.

▲巨大な卵塊をつくったホンサナエのメス,16:33.

ごらんのように巨大な卵塊をつくっています.まるでトラフトンボ状態です.さて,その後,しばらくメスがやってきませんでした.高速で水面を飛ぶ個体は見ましたが,どこへ行ったのかは不明.薄雲に隠れていた日差しが,また雲から出てき強く差すようになって,夕方の雰囲気がなくなったからかもしれません.

18:00までは待つつもりでいました.太陽は大きく傾き,空はだんだんと茜色の気配が強くなってきました.陽が山の稜線に沈もうとしているときでした.まさにそのとき,帰ろうとする直前,−こういうことって結構あるような気がします−,17:59に,同時にメスが2頭,目の前に卵塊づくりに入ってきました.時間をずらせばいいのに,などと贅沢なことを考えながら,1頭に集中しました.三脚に立てたビデオで撮影中に横から撮影をしました.

▲ビデオ撮影の合間に,撮影をした.卵塊をつくっているメス.

このメスは一度産卵のため打水しました.今日の打水は,小さく円を描くようなゆっくりとした飛び方で行われました.カメラで追うゆとりがあるほどです.そして近くに止まって再び卵塊をつくり始めました.こういうサービスは助かります.今度の位置は三脚が立てられない斜面でしたので,もっぱらスチルカメラで撮影しました.

▲一度打水産卵した後,2回目の卵塊づくりをしているメス,上と同じ個体.

そして飛び立ちました.今度もやはり,近くで円を描くように飛んで打水しました.思わずカメラで追って撮影しましたが,シャッタースピードを調整する暇がなく,ぶれています.でも産卵の雰囲気は伝わると思います.

▲卵塊をつくった後,打水産卵するメス.かなり暗いことがわかる.茜色に色づいている空が映っている.

ホンサナエのメスは,茜色の夕暮れが好きなようです.チャンスは徹底的にということで,今日もホンサナエを観察しました.そして今日の観察を終えることにしました.