今日は近畿地方は天気が崩れるという予報でしたが,北陸地方は一日晴天がもつということで,以前から計画していたルリイトトンボの観察に石川県の方まで出かけてきました.片道4時間以上かけて,たった1種のイトトンボを見に行くという強行軍です.

朝4時半に出かけ,現地についたのが9時過ぎでした.すでにルリイトトンボはたくさん水面に出ていて,オスが飛び回り,また交尾や産卵を行っていました.

ルリイトトンボはその名前の通り,体のかなりの部分がルリ色をしており,見た目に非常に派手なイトトンボです.そのメスには,青色型と緑色型がありますが,この生息地には青色型しか見られませんでした.後にお話しするように,ここのメスは潜水産卵を普通に行うせいか,多くの個体がミズダニを体につけていました.交尾は水に浮かぶヒツジグサの葉上ではなく,浅場に生えているカンガレイに止まって行っているものが多かったです.

水面に浮かぶヒツジグサの葉上には,おそらく交尾を終えたであろうタンデムのペアが数多く止まっていました.またオス単独で止まっているものもありました.これはメスを待っているあぶれたオス以外に,「警護中のオス」が結構いることに後で気づきました.また時々オスは,水面上十数センチの所を,かなりの時間ホバリングをすることがあるのですが,その意味はよく分かりませんでした.単独オスは連結のペアや産卵中のメスにしょっちゅう干渉していました.

さて,ルリイトトンボに対面してしばらくは興奮気味でじっくりと観察ができませんでした.交尾やタンデムはたくさん見たので,産卵をじっくりと観察しようと思い,ヒツジグサの葉上や葉柄などに連結産卵する個体を探しました.しかし,タンデム・ペアはあちこち飛び回り,ヒツジグサの葉上にも静止するのですが,ほとんどの場合産卵を始めません.極めてわずかのペアが,水面に立っているヒツジグサのつぼみなどに産卵しているだけでした.

しばらく待ってみても,時々産卵のポーズをするだけで,落ち着いて産卵をし続けることがありません.そしてタンデムで,ただひたすら位置を変えながらあちこち飛んだり止まったりするだけです.彼らは一体何をしようとしているのか,しばらくは分かりませんでした.しかし時間が経ってだんだんと目が慣れてくると,あちこちで潜水産卵をしているメスを見いだすことができるようになりました.数頭はもぐっていたでしょうか.頭を下にして,後ずさりしながら,つまり水面の方に向かって移動しながら,ヒツジグサの葉柄に産卵をしていました.

連結態のまま潜水産卵しているペアもいましたが,これは非常に少数派でした.普通潜水産卵というと,オスは産卵しているメスを見つけてももう諦めるしかないのですが,ここのオスは,潜水が浅ければ,あるいは産卵しながら水面に近づいてきたときに,強引に水中に入ってタンデムを形成しようとしました.

また,潜水産卵しているメスが,後ずさりしながら水面に体の一部が出るようになると,それをアメンボが狙って,口吻を突き刺そうとする行動も見られました.あるメスは完全に刺されてちょっと状態がおかしくなりました.ふらふらしながら葉柄を伝って葉上に移動しようとしていましたが,そんなメスにもオスはつかみかかりタンデムを強要するのです.メスは本当に大変ですね.

このメスはかろうじて一度はオスを振りきりましたが,結局は強引にオスにタンデムを形成されてしまいました.

さて,そんなことを観察していると,突然目の前で,タンデムのペアが,メスの方から頭を下にして前進し,1分もしない間に水中に没していくシーンが展開されました.オスは途中で離れ,その後メスはするするとヒツジグサの葉柄を伝わって20~30cmほど一気に潜ってしまいます.本当にあっという間に潜ってしまうのです.

よく見てみると,あちこちでそのようすが観察できました.タンデムの状態でメスが頭から潜っていき,オスは頭を水面上に出そうとするため,潜る瞬間はタンデムがV字型になります.胸部が浸かる直前にオスはメスを放して水面上空に飛び上がります.

ヒツジグサの葉柄に止まった場合はあっという間に潜水が行えるのですが,葉の縁からもぐりこもうとする個体も多く,この場合はオスが強引にメスを引っ張り上げて,潜水をやめさせるシーンも見られました.またこのような行動を取っているときに,たいがい他のオスがそのまわりを飛び回って,メスを横取りしようと狙っていました.きっと,オスが離れる瞬間を狙っているに違いありません.

正午ころにこのような姿勢でもぐりこむペアが数多く観察されました.そしてそのときにはっきりと分かったのですが,葉上に静止しているオスのかなりの割合が,このようにして潜水していったメスの相手方のオスであって,水面からメスを見守っていたのです.このオスは,メスが潜水産卵をやめて水面に上がってくると,すぐにタンデムを再形成しようとしました.一方で,潜水産卵があまりに長いと,その場所から離れてしまう個体もありました.

このような形式の潜水産卵や警護(と言っていいと思いますが)は初めて見ました.トンボの行動にはまだまだ色々と不思議なことがあります.

ということで,空も曇ってきましたので,14:00頃に現地をあとにしました.やはり一箇所でじっくりと時間をかけると,中身の濃い観察になります.

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