トンボ歳時記
No.305. ヤブヤンマの産卵. 2011.8.13.

今日は,というか今日もまた,オニヤンマの産卵を期待して,10:00過ぎには観察地に入るように出かけました.まあ,行っても,じっと日陰で待つだけのことなので,体力的には楽なのですけど,精神的には結構きつい.

まず今日特筆すべきは,エゾトンボのオスがたくさん飛びだしたということです.ここへは3日連続できているのですが,前の2日間は,エゾトンボをあまり見かけませんでした.今日は複数のオスが追いかけ合いをするほどたくさん訪れていました.また午前から午後にかけてずっと見られました.

ファイル 305-1.jpg
▲うす暗い湿地の上をなわばり飛翔するエゾトンボのオス.

エゾトンボとオニヤンマは同じところをなわばりに持っています.先に見つけた方が,湿地の水面ぎりぎりに降りて低い位置を取り,相手の様子をうかがってから,下方から一気に上空へ追尾します.オニヤンマが追尾するときもあればエゾトンボが追尾するときもあります.異種間の争いではありますが,同種の争いと同じように相手に反応しています.きっとこの2種は,同じような刺激−反応系が進化しているのでしょうね.

ファイル 305-2.jpg
▲私をあざ笑うかのよう(顔が笑ってる!)に,疑似産卵姿勢を取るオス.

ところで本命のオニヤンマのメスは1頭だけ産卵に入りましたが,遠くで手が出ず,近寄ると結局逃げてしまいました.その後はオスが時々パトロールするだけです.そんな中,1頭のオスが,私の目の前で,メスが産卵の時に見せるような上下動をして,湿地面の近くを飛びました.「やーい,メスは来ないだろ.こんな写真が撮りたいのか?」と言われているようでした.オスにまでからかわれるようではだめですね(笑).

▼他にリスアカネ,ヒメアカネ,オオシオカラトンボなどが見られた.
ファイル 305-3.jpg
▲ちょっと覗いた池に,ヤブヤンマが産卵に...

結局今日もむなしく帰るのかと思っていました.時刻は15:00を過ぎています.少し退屈もしたので,近くの池をちょっと覗いたところ,ヤブヤンマのメスが飛んでいるではありませんか.明らかに産卵しに入っています.腹部を曲げて水際を飛んでいます.相手が落ち着くのを待って,池に入り近づきました.きれいなマリンブルーの複眼をした「壮年期」のメスでした.ヤブヤンマメスの複眼は,若いときには淡い緑色に光ります.これはこれできれいのですが,「壮年期」のメスのマリンブルーは,ネアカヨシヤンマの色にそっくりで,非常に素敵です.

ファイル 305-4.jpg
▲ヤブヤンマの産卵.マリンブルーの複眼をした「壮年期」のメス.

さて,最初の1,2回は,近づくとすぐに飛び立ちましたが,3回目は,カメラの最短距離まで近づいてストロボを焚いても,動じることなく産卵するという,まことに良い性格の持ち主でした.十分に撮りましたので,位置を変えてもらおうと,ちょっと驚かして飛び立たせました.案の定,メスは飛び上がり,しばらくホバリングしてこちらの様子をうかがってから,木の枝に静止しました.

ファイル 305-5.jpg
▲上:静止したヤブヤンマのメス.
 以下:負傷した?メスが,地面に落ちた.
  2段目:右後翅が破れているのが分かる.
  3,4段目:はい出てきて起きあがり,この後弱々しく飛んで逃げた.

ところがこの後ハプニングが起きました.10分ほど待つと,再び産卵に飛び立ち,少し離れたところで産卵を再開しました.そっと近づいていくと,何か変です.地面の上でばたばた何かが暴れています.まさかこのメスとは思わず,何なのだろう?と近づくと,大きなカエルがこのヤブヤンマのメスを咥えているではありませんか.産卵に降りたヤブヤンマがカエルの餌食になったのです! この状況を写真に撮る前にカエルはヤブヤンマを放しました,というか,どうやら咥えていたのは右後翅だったようで,翅が大きく破れ,ヤブヤンマはかろうじて逃げ出しました.ショックなのか負傷したのか,すぐに地面に落ちるようにして止まりました.しばらくすると何とか飛び立ちましたが,多分どこかを負傷しているのではないかと思います.そんな飛び方でした.

私が驚かせて飛ばしたことの連鎖で,このような結果になってしまい,ちょっとかわいそうなことをしたと感じてしまいました.気持ちも複雑になったので,今日は,これでおしまいとしました.なお,リスアカネの交尾,ヒメアカネの未熟,オオシオカラトンボの産卵なども見ました.着実に季節は進みつつあるようです.