トンボノート
No.756. ヒメアカネの観察.2020.10.7.

今日は10月2日に続いて,ヒメアカネの観察に行ってきました.10月2日はトンボノートに記載がありません.それはビデオだけで記録したからです.この日はヒメアカネのオスは10頭以上湿地に降りてきていました.そして交尾態は3ペア.しかし,なかなかうまく動いてくれないので,ビデオに撮ることができませんでした.

今日は,そのリベンジです.2日とは場所を変えて出かけました.カメラも接近戦用の手持ちで臨むことにしました.ただ空模様がもう一つで,前線の雲がちょうど太陽を隠しています.前線がもう少し北にあったら,南側に青空が見えているだけに残念な感じです.まあ台風が近づいてきているそうなので,致し方ないでしょう.

観察地の湿地に入るには,夏の間にうっそうと茂ってしまった笹の間を藪漕ぎで抜けていかねばなりません.ということで,現地に入ったのはちょうど10時頃でした.ヒメアカネのオスは1頭だけ湿地に降りてきていました.

▲太陽が陰った湿地でメスを待っているオス1頭.

まったくトンボがいる気配がしないのでちょっと不安になりましたが,時間が経つにつれて,1頭,また1頭とオスが増えてきました.今日の湿地はかなり水が少なくなっていて,観察には都合良さそうです.というのは,あちこちに水がたまっていると,どこで産卵するか分からない,そして,多くの場合,草の根もとに潜り込んで見えない位置で産卵するからです.ところが今日は,そういった草が生えているところには水がなく,開けたところにだけ水がたまった状態なのです.多分開けたところで産卵するだろうと思って,メスを待っていました.

▲オスが1頭,また1頭と上から降りてきて,姿を見せはじめた.

11:00頃になると運良く雲が分散し,太陽が射し始めました.するとあっという間にオスが増え,交尾態も出てきました.最初の交尾態は見逃してしまいましたが,2ペア目は,足下のいかにも産卵しそうなところを飛んでいます.これにねらいを定めました.



▲あちこち移動しながら交尾を続けるペア.

やがて,オスはメスを放し,いつものようにメスに産卵をうながすような動きをします.しかしメスは関心なさそうにちょっと移動しては止まったまま.やがて,オスはそのメスに興味を失ったのか,メスのそばから離れていきました.するとメスはおもむろに産卵を始めました.



▲単独打泥産卵するヒメアカネのメス(ビデオの切り出し).

今日は産卵のビデオを撮るのが目的できているので,,手持ちのカメラで撮影を続けました.十分に近づいて撮影できる位置で産卵をしてくれるよい子ちゃんでした.向こうの方から足下にやって来て,トントン打泥産卵のパフォーマンスをしてくれました.記録は,10月2日の分と合わせて,7分を超えるビデオになってしまいましたが,時間があればどうぞご覧ください.

全部で5組くらいが交尾態になっていましたが,産卵に至ったのを確認できたのはこのメスだけでした.同時に2ペアはいったりするものですから,撮影についてはどうしようもありません.

さて,最後に観察した交尾態は12:00を回った頃のものでした.このペアは,それまでのペアと違って,湿地の隅でじっくりと交尾している風に見えました.産卵を始めるのを待ち続けましたが,こちらが根負けし,そのままにして観察を終えました.もう空はすっかりと曇り空になってしまっています.産卵を撮影している時だけ太陽が照っていたのはラッキーでした.

▲私が根負けした交尾ペア.いつまでもいつまでも交尾していた.

帰り道,湿地の外の小径にも交尾態がいました.産卵活動時間帯が終わったと思われる午後の交尾は,産卵前の交尾とは少し違った感じがしました.産卵ポイントではなく,少し離れたところで,長時間行われているからです.

▲湿地の外の小径で交尾するペア.

こんな感じで今日の観察を終えました.今日面白かったのは,ビデオでも解説していますが,オスとメスの駆け引きです.オスは交尾後メスを放し,そばに止まったりそばを飛んだりして,メスに産卵をうながすような動きをします.しかし,メスはこれに応じず,オスがいなくなってから産卵を始めるのです.メスは警護されたくないのでしょうか?

10月2日に行った生息地では,何年か前もそうでしたが,交尾後メスは産卵せずに樹上へ逃げていってしまうのです.何組ものペアでそういうことを見ましたので,そのときは,今日は産卵意欲がないのか,などと考えていました.

そして10月2日にも同じ行動を見ました.交尾後オスから離れたメスは,しばらくまとわりつくオスをやり過ごしていました.その後産卵を始めるかと思いきや,また樹上へ逃げていったのです.オスはそれを追いかけました.またか,と私は観察を中断しましたが,ちょっと後で1頭のメスが交尾していたあたりの草陰から飛び出したのです.これは産卵していたのかも知れません.ずっと見ていたわけではないので,先の樹上へ逃げたメスかどうかは確認できませんでした.

この生息地で,交尾後樹上へ上がるのは,オスをまくための逃避行動なのかも知れません.先のメスは,オスから逃げ切ったあと,こっそりと湿地に降りてきて産卵をしていたのかも知れません.

そうだとすると,今日の観察地のオスは諦めが早く,しばらくするとメスから離れますから,樹上へ上がっていくと言った行動が見られないと考えることができます.いずれにしても,メスはオスがいなくなってから産卵するようです.他の単独産卵をするトンボのように,交尾と産卵の間に大きく時間が空くわけではありませんが,やはりオスがいないということが単独産卵をするトンボには意味があることなのかも知れません.

ただヒメアカネは密度が高いときは連結産卵するという報告があり,ビデオでも連結産卵しようとする姿が映っています.ただビデオではメスは産卵を拒絶しているように見えました.地域によって違っているのかも知れませんが,私の観察地のヒメアカネは,オスを避けて単独産卵するように思えます.

▲鉄柵に並んで止まるナツアカネたち.

さて,今日湿地へ行く途中の農道に,ナツアカネがたくさん集まっていました.ナツアカネは珍しいトンボではありませんが,最近のトンボの減少を考えると,普通種でもたくさんいるだけで嬉しい気持ちになります.



▲ナツアカネのオス(上)とメス(下).

ということで,半日の晴れをうまく活用できた観察日でした.