続 トンボ歳時記
No.649. オナガアカネとタイリクアキアカネ.2018.10.21.

先日オナガアカネがそこそこの数飛来していたので,今日はさらに徹底的に捜索して,オナガアカネのメスを探すことにしました.メスは,場合によっては繁殖場所にじっと止まっているときもありますが,普通は姿を見せません.メスに出会うには,周辺のねぐらを見つけるか,産卵に来るのを見つけるしかありません.もっとも,飛来種ですから,飛来していなかったらまったくお話にはなりません.今日はこの10月きっての快晴の一日.今日出会えなければ飛来していないということで諦めようと考えて,出かけました.

10:00ころに着きました.今朝は気温が低く,まだ15度です.アキアカネはちらほら飛んでいましたが,トンボの動きはやや鈍い感じです.しかし少しすると,あちこちトンボが飛び始めました.オナガアカネのオスは簡単に見つかりました.ただ,朝のトンボはたいがいそうなのですが,敏捷で近寄れません.

▲私に気づいて,湿地の草の上を飛んで距離をとるオナガアカネのオス.

▲なかなか近づけないので,遠くから....オナガアカネのオス.

▲だんだんと近づいていけるようになった.オナガアカネのオス.

▲そしてやっと近距離に.

そっと近づいても,2mほどのところで,さっと飛び立ってしまいます.先日来たときにオスの写真はだいぶん撮れましたので,こちらもなんか集中力の欠けた雑な動きになってしまいます.だから余計にすぐに気づかれてしまうのでしょう.集中力を奮い起こして慎重に近づき,なんとか近くで大きく撮れました.数は多くて,まあ10頭はいたと思います.

▲成熟したオスのオナガアカネ.非常に敏捷に飛び回る.

▲まだ若いオスのオナガアカネ.腹部の側縁が黄色い色をしている.

▲翅がやや白くなっている成熟オス.

▲これは,3枚上の写真と同じ個体かもしれない.オナガアカネのオス.

さて,1時間30分ほど捜索を行いましたが,メスの姿はありません.なかなかメスを探すのは難しい.気温も十分高くなり,汗ばむようになってきた11:30過ぎ,そろそろここを引き上げようかと思って,湿地を出ようとしたとき,淡褐色をした小型のアカトンボが,単独で打水産卵をしているのを見つけました.いました,オナガアカネのメスです.近づいてカメラを向けようとしたときに産卵を終え,草に止まりました.数枚記録したとき,ファインダーから姿が消え,どこへ行ったか分からなくなりました.

▲オナガアカネのメスを見つけた.しかし,産卵をやめて止まってしまった.

▲近づいて確認したら,オナガアカネのメスだった.

そのあと,周辺をくまなく探し回りましたが,この個体を見つけることはできませんでした.カメラのファインダーを覗いているきに飛び去ると,どの方向へ行ったのかがまったく分からないときがあります.まあ,仕方がありません.

ところが,この逃げたメスの探索中に,オナガアカネとは感じが違う小型のアカネ属のトンボを見つけました.オナガアカネは腹部の先の方が少し太くなっている感じに見えるのですが,このトンボはほっそりと伸びています.もしや,タイリクアキアカネでは? と思って,慎重に,かつ粘り強く,接近を試みました.この個体も,オナガアカネ同様,なかなか近づかせてくれません.やっとのことで何枚か記録を撮りましたら,やはり,タイリクアキアカネでした.

▲タイリクアキアカネらしい個体.腹部が全体的にほっそりとしている.

▲なんとか確認できる距離に近づき,タイリクアキアカネであることが判明.

▲しばらく追いかけたが,やがて一気に遠くへ飛んだので見失った.

ここでオナガアカネとタイリクアキアカネの違いを紹介しておきましょう.いちばんはっきりと分かるのは,腹部第7節の後縁の腹部側が下方に突き出ているのがオナガアカネです.タイリクアキアカネにはそれがありません.また,腹部の斑紋にも違いがあります.さらに両者を比較すると,腹部が太くやや短いのがオナガアカネでほっそりとして細長いのがタイリクアキアカネです.

▲オナガアカネのオスとタイリクアキアカネのオスの比較.

タイリクアキアカネは,21世紀に入って少ししたあたりから飛来数が極端に減少し,代わってオナガアカネが多く飛来するようになりました.20世紀末ころには,飛来するのはほとんどがタイリクアキアカネで,オナガアカネの方が珍品と言ってよい状態でした.ですから,本当に久しぶりにタイリクアキアカネに出会うことができ嬉しく思っています.ちょっと思い出す意味で,古い写真を載せておきます.

▲タイリクアキアカネのオス.21世紀初めには,瀬戸内側にまで多く飛来してきたことがある.

今年は,私にとっては飛来種の当たり年で,スナアカネ,オナガアカネ,タイリクアキアカネと3種に出会うことができました.あと,記録としては,マンシュウアカネというのがあるのですが,これは難しいでしょう.ということで,今日は午前中の2時間半ほどでしたが,面白い観察になりました.写真にはなりませんでしたが,オナガアカネの産卵を始めて観察できたのも大きかったです.