続 トンボ歳時記
No.648. たくさんのアキアカネ,そしてオナガアカネ.2018.10.18.

今日は兵庫県北部へ行ってきました.複数の天気予報で,午前から昼にかけて晴れマークがついており,晴れる可能性が高そうだからです.ただ午後遅くから雨らしい.アカトンボは午前中だけ晴れればいいので,雲が厚くなってきたら帰ることにして,出かけました.

今日のねらいはアキアカネです.アキアカネを見に車で3時間近く走っていくのですから,時代は変わったものです.もちろん悪い方にですけど... 今日のねらいは,アキアカネの産卵観察というよりは,朝,産卵にやって来る連結個体を記録しようというのです.兵庫県北部では,かつてのように,群れになって水田にやって来るアキアカネが見られるのです.青空をバックに次々と飛来するアキアカネ.なんとも幻想的です.

まずは,目的の場所から少し離れた,広く開けた水田地帯の道路上に車を止めて観察をしました.ここで気づいたことは,みな北を目指して飛んでいるということです.写真は朝日をバックに西を向いて撮影しています.写真を見てお気づきと思いますが,全てトンボは右向き,つまり北に向かって飛んでいます.たぶん,産卵場に何らかの記憶があるのでしょうね.そちらを目指して移動しているといった感じに見えます.また飛んでいる高度も高いものが多く,その多くは10m以上の高度を飛んでいるようです.アキアカネのペアは時間差で次々にやって来るので写真は1回に1ペアしか撮れませんから,沢山の写真を掲げました.

▲次々に頭上を通り過ぎるアキアカネ.すべての個体は右側面に日を受けて,つまり北向きに飛んでいる.

▲これは東向きに撮った写真で,左が北になる.

この開けた場所には,稲刈り後に水がたまった水田があり,そこを産卵場にしようと,降りてくる個体も少数いました.しかし,だいたいは北の方に飛び去ってしまい,やはりどこかを目指しているように見えます.

次に私の目的地である休耕田や稲刈り後の湿地状の水田で,同様にタンデムで飛ぶアキアカネを観察してみました.やはり,谷の入り口から奥の方に向かって,同じ向きに飛ぶ個体は多かったですが,ややランダムになってきていました.また,より低空を飛ぶ個体が多く,中には水田に向かって降りていく個体もありました.おそらくここを産卵場と認識しての行動なのでしょう.

▲目的地の谷筋に入っていくと,飛ぶ高度が低くなってきた.

▲高度を下げ,すぐ頭上を通り過ぎるアキアカネ.

足下の休耕田の草地では,たくさんのオスがメスを見つけて交尾態になって飛び回っていました.交尾が終われば上空へ上がって飛び,産卵場所を探すのです.この谷もアキアカネのねぐらになっているようです.

▲休耕田の草地で交尾するペア.

▲農道の横の草に止まって交尾するペア.

▲交尾したまま飛び上がるペアもいた.

産卵場所を見つけると,ペアは下降してきて,産卵を始めます.今日は休耕田の湿地で撮影する予定でした.しかし,休耕田は草が茂りすぎていて,アキアカネは産卵はしていましたが,草にもぐり込むような感じで,写真の記録が難しいと感じました.

▲休耕田湿地の草の上を飛んで,産卵場所を探すペア.

▲草の間にわずかに見える水面に向かって,草の間に入って産卵するペア..

▲打水が終わって草の間から出てくるペア.

そこで,いい記録場所はないかと少し歩いてみましたら,稲刈り後の水田の一つが,コンバインの轍が残っていて水がたまり,アキアカネのちょうどよい産卵場所になっていました.すぐ横の畑で農家の方が仕事をされていましたので,許可を得て,水田に入らせてもらいました.とにかく個体数が多いので,轍跡の狭い産卵場所には,複数のペアが群れて産卵をしています.まずはそういった風景を記録しました.

▲2ペアの同時産卵.

▲3ペアの同時産卵.

▲4ペアの同時産卵.

アキアカネのメスには,腹部背面が褐色のものと,赤くなるものがあります.沢山のペアの中から,そういった個体を見つけて記録しました.まずは,褐色のタイプの産卵です.といっても,特に何かがあるわけではありませんが...

▲メスの腹部背面が褐色のタイプの産卵.

次はメスの腹部背面が赤くなるタイプです.ややくすんだ赤だった個体と,鮮やかな赤だった個体を選んでみました.沢山いると選び放題です.

▲メスの腹部背面がややくすんだ赤色のタイプ.

▲メスの腹部背面が鮮やかな赤のタイプ.

産卵は10:00過ぎに始まって,11:00になってもまだまだ続いているようでした.産卵を終えたアキアカネたちは摂食飛翔を始めます.もちろん朝からやっている個体もたくさんあるのですが,産卵時刻が終わったころに特にまとまった群飛が見られます.

▲4頭のアキアカネのオスが上空を摂食飛翔している.産卵が始まるころの時間帯.

▲アキアカネの群飛.白いゴミのような点は全てアキアカネである.産卵が終わったころの時間帯.

▲産卵を終えたメスであろうか,日に当たってゆっくりと休んでいる.

ご覧の通り,よく晴れていて気持ちのいい観察になりました.この晴れは,予報では午前中までのようです.アキアカネは十分観察ができましたので,あと,ノシメトンボとオナガアカネの観察に行くことにしました.この秋のアカトンボ観察で残っているのは,ノシメトンボだけになりましたので,一気に観察できればという魂胆です.ノシメトンボを見に行く場所には,ときどきオナガアカネが飛来するので,それもうまくいけばゲットしようというプランです.

現地に着くと,友人がやって来ていて,オナガアカネがいると教えてくれました.よく観察すると,オナガアカネが飛んでいました.少し小さくて,よくホバリングするので,それと分かります.

▲オナガアカネのオス.全部で6頭はいたと思われる.

オナガアカネの動きははっきりとしていて,日が照るとさーっと活動を始めるのですが,日が陰ると,止まったまま動かなくなってどこにいるか分からなくなります.友人が4頭採集したようなので,全部で10頭くらいは飛来していたでしょうか.ここにこんなにたくさん来ているのを見るのは初めてです.最後にいちばん人なつっこく,逃げなかった個体の顔アップです.オナガアカネの顔面は本当に真っ白です.

▲オナガアカネ顔の拡大.ややクリーム色がかっているが,額が真っ白である.

さて,目的のノシメトンボですが,オスが1頭飛んでいただけで,産卵にはやってきませんでした.ナツアカネは複数産卵をしていました.

▲ナツアカネの連結打空産卵.

▲途中でメスを放し,警護産卵に移行した.

オナガアカネのメスがいないかと,さらに隅々まで探し回りますと,リスアカネが林縁の陽が当たるところで産卵をしていました.10月も後半になると,リスアカネやナニワトンボのような日陰で産卵していたアカトンボも,日向で産卵するようになります.

▲林縁の陽が当たるところで産卵していたリスアカネ.

季節はどんどんと進んでいきます.あと一月もすると,老熟したアカトンボたちが,ときどき産卵するのを見るだけとなるでしょう.キトンボだけは多分その頃も元気です.この週末から来週にかけては晴れの天気が続きそうです.それにしても今日の天気予報はよい方に外れました.帰途につくまでずっと晴れていました.よかった.