Fraser (1957) は,まず第4,5径脈 R4+5 と中脈前枝 MA の関係性を見ている.サラサヤンマ属 Sarasaeschna,コシボソヤンマ属 Boyeria,ミルンヤンマ属 Planaeschna,アオヤンマ属 Aeschnophlebia では,中脈前枝 MA は最後まで明瞭で,第4,5径脈 R4+5 とほぼ平行に走っている(1)(2)(3)(4).しかしカトリヤンマ属 Gynacantha において,ちょうどこれらの翅脈が後方に曲がるあたりで第4,5径脈 R4+5 から離れるように中脈前枝 MA がわずかに膨らむようになり(5a),ヤブヤンマ属 Polycanthagyna においては,中脈前枝 MA は大きく膨らんでいて,さらにこのあたりから中脈前枝 MA は小さな横脈によって第4,5径脈 R4+5 と接するような感じがわずかに出てくる(6e2).この点はルリボシヤンマ属 Aeshna においても同様である(7a1,a2)(8e1,e2).そしてトビイロヤンマ属 Anaciaeschna,ギンヤンマ属 Anax においては,むしろ中脈前枝 MA はこの横脈によって第4,5径脈 R4+5 と接する感じが強く出るようになる(9c)(10g).同時にこれより先の中脈前枝 MA がやや不明瞭になってくる.
以上のように,第4,5径脈 R4+5 に対する中脈前枝 MA の連続的な形状変化が,現在採用されているヤンマ科の属の並び順に一致していることがわかる.以上の連続的な変化の中で,Fraser (1957) はアオヤンマ属とカトリヤンマ属の間に線を引き,ヤンマ科を大きく2つに分けた.
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a. 中脈前枝 MA は最後まで明瞭で,第4,5径脈 R4+5 とほぼ並行に走る(1)(2)(3)(4). ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Brachytrini
b. 中脈前枝 MA は,それが後方に曲がるあたりで第4,5径脈 R4+5 から離れるように膨らむか,横脈によって第4,5径脈 R4+5 に接するように見えるか,または,膨らんだ部分より先の方がやや不明瞭になる(5)(6)(7)(8)(9)(10).・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Aeshnini
さて,上記の Brachytrini のうち,サラサヤンマ属とコシボソヤンマ属は,第3径挟脈 IR3 が先の方で分岐しないという特徴がある(図2).アオヤンマ属やミルンヤンマ属は IR3 が先の方で分岐する(図3).この特徴は,後者の Aeshnini においても同様である.浜田・井上(1985)のヤンマ科の検索表では,まずこの点に注目し,IR3 の分枝によってヤンマ科を2つに分けている.検索しやすさから言えば,浜田・井上(1985)の方法が明瞭で間違いがない.
サラサヤンマ属とコシボソヤンマ属の区別は中室 r+m を見れば歴然である(図2).コシボソヤンマの r+m には4本程度の横脈が見られるが,サラサヤンマ属にはそれらがない(他のヤンマ科の属でも通常見られない).一方アオヤンマ属とミルンヤンマ属の区別は,Fraser (1957) では特にふれられていないが,浜田・井上(1985)では,結節と縁紋との距離及び縁紋の長さの比較で分けている.また邦産のミルンヤンマ属とアオヤンマ属は,腹部第3節のくびれがあるかないかで簡単に見分けられる.
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a.第3径挟脈 IR3 が先端の方で分枝しない(1)(2).・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.
b.第3径挟脈 IR3 が先端の方で分枝する(3a)(4c) .・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3. -
a.中室 r+m には横脈がない(1).・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サラサヤンマ属
b.中室 r+m に4本程度の横脈がある(2).・・・・コシボソヤンマ属・コシボソヤンマ -
a.腹部第3節が明らかにくびれている.縁紋の長さは短い(3).・・・・ミルンヤンマ属
b.腹部第3節はくびれない.縁紋の長さが長い(4).・・・・・・・・・・・・・・・・アオヤンマ属
Aeshnini は,翅脈に関しては比較的まとまった一群で,翅脈だけでの区別が難しい.Fraser (1957) も,トビイロヤンマ属とギンヤンマ属など(他は外国産または飛来種の属)を翅脈によって分けた後は,生殖器によって分類を進めている.Fraser (1957) が翅脈として取り上げたのは,第3径脈 R3 の曲がり方,肛三角室 at の有無,肛角部の形状である.浜田・井上(1985)は,これらに径分脈 Rs が弧脈 Arc のどの位置から出ているかといったことなどを加えて検索表をつくっている.
この連続的変化は翅脈の進化を考える際に重要な形質となりそうだが,検索キーとしては,連続的すぎて分けにくい形質でもある.そこで,肛三角室の有無,肛角部の有無,径分脈の出る位置,小膜部 mb の有無などを加えて,検索表を作成する必要が出てくることになる.余談になるが,ルリボシヤンマ属の中でマダラヤンマだけは,翅脈で見るとむしろトビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea に近い(トビイロヤンマの標本は現在欠落).幼虫も実は外観がそっくりである.「ルリボシヤンマ属」的な形質は,径分脈の出る位置くらいのものであろう.
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a.第3径脈 R3 は,縁紋内縁付近またはやや内側の位置で後方に曲がる(5c).前翅の第1結節前横脈 Anp は亜前縁脈 Sc とほぼ直角に交わる(5d).小膜部 mb がない(5i)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・カトリヤンマ属
b.第3径脈 R3 は,縁紋内縁から外縁付近の位置で後方に曲がる(6g)(7c)(8g)(9e)(10i).前翅の第1結節前横脈 Anp は亜前縁脈 Sc と斜めに交わる.・・・・・・・・・・・・・2. -
a.縁紋補強脈 Bv がないかまたは不明瞭(6h).前翅の縁紋は後翅の縁紋より長い(6).・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤブヤンマ属・ヤブヤンマ
b.縁紋補強脈 Bv は明瞭.前翅の縁紋は後翅の縁紋とほぼ同じ長さ.・・・・・・・・・・・3. -
a.径分脈 Rs は弧脈 Arc の中点付近または少しだけ前方から分枝していて(8d),第3径脈 R3は,種によって縁紋付近の様々の位置で後方に曲がる.♂の肛角部は先端が鋭く尖る.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルリボシヤンマ属
b.径分脈 Rs は弧脈 Arc の中点よりかなり前方から分枝していて(9a),かつ,第3径脈 R3は,縁紋の外側端くらいの位置で急角度で後方に曲がる(9e)(10i).♂の肛角部は存在しない場合もある(10f).・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4. -
a.第3径脈 R3 は,縁紋付近の位置で,特に縁紋に近づくように膨らむことがなく急角度で後方に曲がる(9e).♂の後翅には肛角部があり(9b)肛三角室がある.・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・トビイロヤンマ属
b.第3径脈 R3 は,縁紋の外側端付近の位置で,縁紋に近づくように膨らんで曲がる(10i).♂の後翅に肛角部がなく(10f)肛三角室もない.・・・・・・・・・・・・・ギンヤンマ属