続 トンボ歳時記
No.640. 絶滅危惧I類 CR+EN のトンボ調査.2018.10.8.

今日早朝のNHKのデータ放送の天気予報によると,兵庫県北部(豊岡市)は一日中晴れマーク.しかし,Yahooの天気予報では昼過ぎを除いて雨と曇りマーク.どちらを信じていいのやら,まあ人間というものは,自分の都合よい方を信じたがるもので,アキアカネの集団飛行を見たかったので,NHKを信じて兵庫北部へ出かけてきました.

▲兵庫県南部は文句なしの秋晴れ.

ところが,遠阪トンネルを抜けると,空はどんよりと,重たい感じの雲が一面に垂れ込めていました.でも,雲のすき間の一部に青空も見えましたので,そのままさらに北部へ進みました.しかし,豊岡市に入ったあたりから,なんとまあ,雨が降り出し,どうしようもない感じになりました.今日の相手は,繁殖活動が晴天の午前中だけという気難しいものなので,8:15,転進することを即断しました.Uターンして今来た道を帰ることにしました.

▲豊岡市.国道312号線からの景色.

真っ向から矛盾する天気予報を目にした場合,本当にどう判断していいのか分かりませんね.NHKのデータ放送にはよく裏切られている感じがします.とまあ,愚痴を言っても仕方ないので,転進しながら,今日のテーマを考えました.その結果,タイトルのように,兵庫県に生息し,今の時期に見られる絶滅危惧I類 CR+EN を探索することにしました.兵庫県には,CR+EN(Critically Endangered + Endangered)に指定されているトンボは5種います.このうち,ヒヌマイトトンボは今の季節にはもう見られないでしょう.またベッコウトンボはおそらく県内絶滅しています.残りの3種は,コバネアオイトトンボ,マダラナニワトンボ,オオキトンボです.これらは今がシーズンの種ですので,これらを探すことにしました.

▲兵庫県内に見られる絶滅危惧I類の5種.いずれもオスである.

まずはマダラナニワトンボから始めることにしました.マダラナニワトンボは県内減少が著しいトンボで,私は2016年を最後にその姿を見ていません.昨年2017年は事情があって調査に行けませんでした.さて,転進して,そのかつての生息地に着いたのが10:15,池には,アオイトトンボ,ネキトンボ,キトンボが飛んでいました.ここでは11:15まで待ちましたが,まったく姿を見せませんでした.2016年は12:00にオスが出てきたということを,今日は急な予定変更でチェックできていなかったので,まあしかたありません.

▲訪れた池にいたキトンボのオス.

▲ネキトンボのオス.ネキトンボは産卵も行われていた.

12:00までいなかったこともあり,マダラナニワトンボがこの場所で消滅したかどうかは断定できません.しかし,マダラナニワトンボがが舞う姿が定常的に見られるような状態ではなくなっています.個体数は0に近く,もう,県内絶滅もそう遠いことではないように思います.

▲2012.10.13. 今日訪れた池で観察したマダラナニワトンボの産卵.

さて,次はオオキトンボの様子を見に行くことにしました.兵庫県ではまだオオキトンボはどちらかといえば多く残っているように思えます.毎年必ず姿を見かけますし,あちこちの池で産卵しているのも見ています.今日は,例年の観察場所へ行ってみました.残念ながら,池は満水状態.今年は台風などで雨が多く降ったせいか,あちこちの池が満水です.以前,満水でもオオキトンボが産卵していたので,とりあえず池の周囲を回ってみました.すると,池の横の田んぼの電柵に4頭のオスが止まっていました.この池に来ているようですね.オオキトンボは打泥産卵だけでなく打水産卵もしますので,満水でもどこかで産卵しているのでしょう.それから,この池では以前にマイコアカネが少数見られていたのですが,今日,久しぶりにオスを見かけました.まだ細々と命をつないでいるようです.

▲電柵に止まるオオキトンボのオス.

▲電柵の杭に止まるオオキトンボオスの顔.

▲この池にはマイコアカネが健在であった.

さて,最後は,コバネアオイトトンボです.この5年間ほど,私はコバネアオイトトンボの姿を見ていません.もう探す場所がないといってもよいほどなのですが,ここならという場所を訪れてみました.すると,なんと,池の周囲の草むらに,複数のオスがもぐり込んでいました.コバネアオイトトンボはまだ県内に生き残っていたのです.これは今日の最大の発見です.これで,兵庫北部へ無駄足を運んだ悔しさが吹き飛びました.北部が雨でよかった,雨でなかったら,多分いないだろうと思っていたこの場所へは足を運んでいませんから.

▲他のアオイトトンボ属とは違った上品さがあるコバネアオイトトンボのオス.

▲胸側の薄緑色が独特である.

▲草むらにもぐり込んでいたオスたち.

▲コバネアオイトトンボオスの顔.

産卵していないかと探してみましたが,それは見つかりませんでした.なお,この池の草陰で,リスアカネが産卵をしていました.

▲コバネアオイトトンボを見つけた池で産卵するリスアカネ.

今日は絶滅危惧I類のトンボを探しに行きました.マダラナニワトンボが見られなかったときに頭をよぎったことですが,最近ものすごい喪失感に襲われています.私が本格的にトンボ調査を始めたのが1988年あたりでした.そのころは,次々に新しいトンボやその生息地を発見し,いわば宝物がどんどん増えていった時代でした.ところが最近は,その宝物を失うばかりです.今日のコバネアオイトトンボの発見は,そういう意味では珍しく得た宝物でした.