続 トンボ歳時記
No.638. ヒメアカネの観察.2018.10.3.

今日も引き続き晴れ.明日から雲のち雨で,その後台風25号が接近するとのこと.アカトンボの観察にちょうどよいこの時期に4連続雨というのは,ついていません.今年まだ繁殖活動を観察できていないアカトンボは,8種類あります.今の時期なら,コノシメトンボかヒメアカネ.観察にストレスのかかるヒメアカネを先に見ることにしました.なぜストレスがかかるかというと,交尾しても産卵しないで逃げていくメスが結構いること,産卵を始めても,密に茂った草の中にもぐり込んで産卵することで,思ったように記録が撮れないからです.

さて,ヒメアカネの観察地は複数あるのですが,今日は春にサラサヤンマを観察したところへ行くことにしました.現地到着は9:21,これくらいかと思って出てきましたが,まだヒメアカネは湿地に2頭いただけでした.それとも数が減ったのかと思って,ちょっと心細く感じました.よく観察していると,ときどき木の上から降りてくるオスがいます.まだ気温が十分ではないのだろうと考えて,ここで粘ることにしました.

▲湿地の日向に止まってメスを待つヒメアカネのオス.

▲ヒメアカネのオス.

約1時間,待ち続けました.オスの数は,少しずつ増えてきました.7頭くらいになったでしょうか.そのとき,交尾態のペアが湿地に入り込んできました.あちこち飛び回っています.交尾時間は5分ほどでした.突然オスがメスを放しました.しかし,このメスは産卵を始めず,上へ上へと飛び,ついに姿を消しました.このオスは多分産卵意欲のないメスを捕まえてしまったのでしょう.長い間交尾終了を待ち続けてのメスの逃避,これがストレスの原因です.

▲10:20,湿地を飛び回りながら交尾を継続するヒメアカネのペア.

▲ある程度飛んだら葉っぱの上などに止まる.

▲なかなか近づくのは難しかったが,やっと寄ることができた.

次を待つことにしました.でもなかなか入ってきません.相変わらずオスたちはときどき飛んではホバリングを交え,メスが来ていないか確かめています.そんなとき,大型のヤンマが産卵に入ってきました.この時期に湿地に産卵するヤンマって一体何だろう,といぶかしく思いました.じっと目で追いかけていますと,独特のスタイルで産卵を始めました.オニヤンマです.オニヤンマは湿地でも産卵するのですね.湿地を流れる細流での産卵は何度でも見たことがありますが,まったく水が停滞している所での産卵は初めてでした.10:45のことでした

▲10:45,湿地の流れがないところで産卵を始めたオニヤンマのメス.

▲私が動いたせいか,少し場所を移動して,再び産卵を始めた.

▲アオミドロの上に産卵管を突き立てている.

▲向きをいろいろと変えて産卵するオニヤンマのメス.

11:16になって,次の交尾態が入ってきました.それも2ペアがほぼ同時に.こういうのって困ります.どちらを追いかけるか,二兎を追うものは...ということわざもありますし,腹を決めて,足下のペアをねらうことにしました.交尾時間の5分が長く感じられます.目を離したら見失うことも多いので,じっと交尾態を見つめ続けます.11:20に,交尾を解きました.メスが枯れ枝に止まり,オスも近くに陣取りました.しばらく待つと,メスが産卵を始めました.ついに来た! と思ってカメラを向けたとたん視野からメスが消え,どこへ行ったか分からなくなりました.同時に入ってきたもう一組のいたあたりへも行ってみましたが,どちらのメスも行方不明.これもストレスの原因です.他のアカトンボの場合,交尾後の産卵個体を見失うことはほとんどありません.だいたい連結産卵が多いですから.

▲11:16の交尾個体.

▲オスが翅を大きく後ろへ反らしている.

▲交尾を解かれたメス.メスは交尾が終わるとこのように1分ほど止まる.

まあ,しかたありません.次を期待することにしました.11:34,湿地の向こうの方でメスが飛んだように見えました.湿地を歩くのは,これまたストレスですが,急いで駆けつけることにしました.このあたりだったと思うが,...,とまわりを見渡しましたら,密生するササの陰で,メスが産卵をしていました.短時間だったので,産卵を始めてから少し経っていたのでしょう.でも,やっと観察ができました.

▲密生するササの陰であるが,比較的開けている場所で全身をとらえることができた.

▲ヒメアカネのメスによる打泥の瞬間.

▲打泥のあと少し後ろに飛び上がり,次をねらうように,つかの間ホバリングする.

▲そしてまた打泥する.

このあと,11:40,また交尾態のペアが入ってきました.複数のペアが入ってきて,いよいよ産卵のピークが来たようです.やはり,近くのペアに的を絞って産卵を期待しました.じっと待っていますと,やがてオスがメスを放し,例によってメスはしばらくじっと止まっていた後,産卵を始めてくれました.しかし,すぐに止まり,次に産卵をどうするか迷っているみたいな感じでした.

▲11:40に入ってきた交尾ペア.

▲あちこち移動して交尾を継続した.

▲交尾を解かれた後,メスは産卵を始めた.

▲しかしすぐに止まって動かなくなった.

このメスが産卵しようとした場所は,開けた場所だったので,期待は大きかったです.しかししばらく止まった後,草の中にもぐり込みような動きをしました.それを見たこのメスの相手のオスは再びメスを捕まえて交尾をしました.交尾時間はとても短かったのですが,これは自分が交尾したメスだからでしょうか.そしてオスはメスを放し,少し離れた位置に止まりました.

▲一度交尾したメスと再び交尾した.

▲交尾後,メス(下)が止まっているそばにオス(上)も止まっている.

▲交尾後,止まっているメス.

今度はメスも腹を決めたように産卵を始めました.しかし,草の中にもぐり込んだのです.オスも草の中にもぐり込んで警護しています.まあ,これがヒメアカネの生態なので,強引に写真を撮影しました.草の隙間から見える体の一部にピントを合わせてシャッターを切るのですが,思うように行かず,これがまたストレスの原因です.わずか1,2分の産卵でした.メスは上空へ飛んでいきました.

▲草の中にもぐり込んで産卵を始めたヒメアカネのメス.

▲打泥しているヒメアカネのメス.

▲草陰で産卵するヒメアカネのメス.

▲かろうじて全身が写っている.打泥しているヒメアカネのメス.

ということで,なんとか2頭のメスの産卵を記録することができました.12:00を過ぎましたので,ヒメアカネはこれで終わることにしました.湿地を離れて農道を歩いていると,観察した湿地の横に,産卵を終えたのでしょうか,ヒメアカネのメスが止まっていました.少し行って田んぼの横にさしかかりますと,ナツアカネがたくさん鹿よけ電柵の電線に止まっていました.このあたりの水田は稲刈りが終わっています.稲刈り前なら,たくさんのナツアカネが,稲の上で産卵している姿が見られたと思います.来年来ることにしましょう.

▲小径でくつろいでいるヒメアカネのメス.

▲電柵の電線に止まるナツアカネ.

帰りに,コノシメトンボのロケハンをすることにしました.20年近く前にコノシメトンボが結構たくさんいた池に行ってみました.午後に休息しているアカトンボたちの観察です.アカトンボたちは木のてっぺんに結構たくさん止まっていました.しかしコノシメトンボは見つからずで,この池ではダメですね.

▲キトンボのメス.

▲アキアカネのオス.アキアカネが来ていることに,なぜか安心.

▲ネキトンボのオス.ネキトンボは5頭ほど見られた.

ということで,今日は観察を終えることにしました.次の雨が通り過ぎたら,今度は,コノシメトンボでも見に行くことにしましょう.そうそう,最後に成熟したヒメアカネのオスの顔拡大です.なんか,ちょっと怖そうな顔をしていますね.

▲ヒメアカネのオスの顔.顔面は真っ白になっている.