続 トンボ歳時記
No.616. ハネビロエゾトンボの観察.2018.7.25.

いつもなら8月に入ってから出かけるハネビロエゾトンボの観察ですが,今年は少し早い目に覗いてみました.ハネビロエゾトンボの産卵は12:00前後と,だいたい過去の観察で経験済みです.現地には10:00少し前に入りました.ところが,入って一通り流れを見回ると,早速産卵メスに出会いました.9:54のことです.

▲9:54,到着とほぼ同時に産卵に入ってきたハネビロエゾトンボのメス.

▲流れの上で,打水,打泥を繰り返す.水面に波紋が見える.

▲泥壁の方に向かって産卵をするメス.こちら側からだと腹部が曲がっているのがよく分かる.

▲往ったり来たり落ち着くことなく産卵を続けるメス.

▲石の表面に産卵管を打ちつけている.

この産卵メスは腹部が曲がっています.個体群が分断し,ボトルネック効果などが起きて遺伝的多様性が減じられると,こういったことが起きやすいということを以前トンボ研究家から聞いたことがあります.メスが去った後,早速撮影した画像を検査しましたが,最近視力が落ちてきたのか,ピントが来ていない写真が多くありました.寄る年波には勝てませんねぇ.などと考えていますと,また私の横を通り過ぎる個体がありました.オスとは違う上下動を伴う飛び方なので,メスと確信しついていきました.すると,なんと足下で産卵し始めました.これいちばん嫌なパターンなのですね.

▲足下で産卵すると,その上を覆っている植物が邪魔をするのでこんな感じになってしまう.

▲覆い被さる植物がないところへ出てきたときはうまく撮れる.

▲砂の部分ではなく石の部分に腹端を打ちつけている.

▲腹部を反らしてこれから石の表面を打ちにいこうとしているのか.

オスもまだ1頭しか見ていないのに,あっという間に産卵を観察でき,早速ミッション完了というところです.その後はオスと戯れて時間を過ごしました.お昼頃に産卵に来るという経験則があるので昼までは滞在することにしました.オスの数がだんだんと増えてきて,初めのうちは流れを大きく周回していましたが,だんだんと狭い範囲を飛翔するように変化してきました.そしてときどきオス同士が出会うと,追飛行動が見られるようになりました.

▲複数のオスが活動を本格的に始めたのは10:30ころであった.それまでは1頭が飛ぶだけ.

▲翅を交互に羽ばたいているのは,ホバリングしている証拠である.

▲かなり低い位置でパトロールしているハネビロエゾトンボのオス.

▲脚の伸ばしているのは,近くにオスがいてこれから闘争をしようとしている証拠.

▲こっちを見ながらホバリングを続けている.

11時を過ぎるとオスの姿が見られにくくなってきました.オスは静止し始めたようです.薄暗いところでじっと止まってメスを待つ方法ですね.いつも不思議なのが,飛んでいるときはオス同士が出会うと闘争が開始されるのに.静止するときには,オス同士が並んで止まることがあることです.

▲11:00を過ぎると,飛んでいても止まりたそうな仕草をし,ついには止まる.

▲オスが2頭仲良く並んで止まっている.

▲トンボを干物にしているみたいである.

その後もオスがときどき飛ぶくらいで,メスはとうとう12:00ころまでやって来ませんでした.まだオスやメスも若い感じがしました.これから1週間ほどして8月に入ると十分成熟した個体がやってきて,流れは一気に賑やかになるのでしょう.お昼に産卵によく来るのは成熟してからかもしれませんね.最後は顔シリーズで.

▲最後は顔シリーズ.ハネビロエゾトンボのオス.

▲エゾトンボの複眼は独特のグリーンに光っている.

ということで今日の観察を終えました.暑いときは樹林内で観察するトンボに限ります.今日も観察を終えたときの温度は34度でした.


<追加観察>

夕方に近くの谷筋にヤンマの黄昏飛翔を見に行きました.初めての谷筋です.環境はとても良いのですが,ヤンマはまったく飛びません.最近自分の環境を見る目がなくなったのか,トンボが相当に減少したのか,イヤになります.以前であればこれといった谷筋に入れば,必ずヤブヤンマやギンヤンマが飛び,それにアオヤンマ,ネアカヨシヤンマ,マルタンヤンマなどがちょっとだけ混じって飛ぶのが普通でした.ギンヤンマも飛ばない,どうなったんでしょうね.兵庫県も相当マニアックに探さないとトンボが見られなくなっているのでしょうか.

コシアキトンボが17:30に産卵していました.卵がびっしりとついており,ここで産卵するメスが多いことを伺わせます.

▲池岸から垂れている草の表面にびっしりと黒っぽい卵が付着している.

▲産卵するコシアキトンボのメス.羽根の先端の褐色部が広いノシメ斑型である.