続 トンボ歳時記
No.593. キイロサナエの羽化とヤマサナエの観察.2018.5.26.

5月もいよいよ終わりに近づきました.1年12ヶ月を4つに分けて,それぞれ春夏秋冬と区切りますと.3,4,5月が春の月ということになるのでしょうか.この定義にしたがうと,5月の終わりは,春の終わりということになります.そして6,7,8月の夏に向かって,6月の訪れは,夏の始まり−初夏−ということでもあります.トンボの世界も,春のトンボが姿を消し始め,初夏のトンボが次々と姿を現し始めています.

▲アサヒナカワトンボのメス.

▲ニホンカワトンボのオスの自然死.

アサヒナカワトンボ,ニホンカワトンボ,いずれも最後の頑張りを見せていますが,上の写真のように1頭また1頭と命が尽きていきつつあります.ムカシヤンマはまだ密着した観察を行えていません.でも今が盛りとばかり,あちこちでその姿を見かけます.春の最後の観察として挑戦したいと考えています.その一環として水の湧き出す場所で待っていたら,ムカシヤンマのオスが肩に止まりました.ムカシヤンマというヤツはよく人に止まります.

▲ムカシヤンマのオス.独特の止まり方だ.

▲産卵場所の雰囲気のある場所で座っていたとき,肩に止まったムカシヤンマのオス.

サナエトンボの仲間も例外ではありません.ホンサナエなどの生き残りが,山のふもとで暑い昼間を過ごしていました.ところでこのホンサナエのメス,一体どこから来たのでしょうねぇ.この近くにホンサナエの生息地でもあるのでしょうか?

▲ホンサナエのメス.こんなところで出会えるとは思いもしなかった.

数が減りつつある春のトンボに対して,初夏や夏のトンボは目立ってきました.コヤマトンボも川を飛び始めました,モートンイトトンボも姿を現し始めました.そして一足飛びに2つ先の季節のトンボ,アオイトトンボも羽化を始めたようです.

▲コヤマトンボのオスのパトロール.ちょっとピントが甘い.

▲モートンイトトンボのメス.まだ成熟個体やオスは見られなかった.

▲アオイトトンボのメス.これから9月まで3ヶ月以上未熟期間を過ごすのだ.

夏のトンボとして代表的なショウジョウトンボ.今日,産卵をしていました.産卵をして飛び回るまだ新鮮なメスの姿を追いかけてみました.打水の瞬間はなかなか難しいです.

▲産卵のために飛び回るショウジョウトンボの若いメス.

▲打水の瞬間.1/1250秒のシャッター速度でも,水の動きは止まっているが,トンボは微妙にぶれている.

▲すばしこく飛び回って打水産卵するショウジョウトンボのメス.

ということで,前置きが長くなってしまいました.初夏の代表的なサナエトンボ,キイロサナエの羽化,そして春の終わりから繁殖活動に入る,ヤマサナエの産卵,大型のアジアサナエ属の2種を今日は追いかけてみることにしました.結果からいいますと,ヤマサナエの産卵は見ることができませんでした.

まずはキイロサナエの羽化からです.ここのところの連日の観察行で疲れが出たのか,今日は家を出るのが少し遅くなり,ほとんどの羽化個体は,翅の伸張が終わっていました.

▲キイロサナエのオスの羽化.

▲キイロサナエのメスの羽化.

▲羽化している微小環境.水際で羽化する.

▲キイロサナエのオスの羽化.もう一つの羽化殻と重なっている.

▲キイロサナエのメスの羽化.生殖弁の尖りが見える.

▲キイロサナエのオスの羽化.

羽化が終わって開翅したあと,少し間を置いて飛び立ちます.この辺はコサナエ属と違うところですね.飛び上がると,近くに止まることもありますが,たいていは空高く飛び上がり,背山の樹上へ飛び去ります.

▲開翅してしばらくそのままの姿勢でとどまる.

▲飛び立った瞬間のキイロサナエのオス.

▲上空へ飛び上がっていくキイロサナエ.

キイロサナエは羽化不全が結構見られます.今日も1頭のオスが草むらから飛び立ち,地面に止まりました.羽化不全で左の後翅と前翅が縮れています.

▲羽化不全のキイロサナエのオス..

キイロサナエが成熟するのは,あと2週間ほどあとのことでしょう.今度は繁殖活動を観察に来ることにします.

さて,次はヤマサナエです.これが今日の本命でもありました.今日の調査も,ヤマサナエの産卵を探すことを軸に行動しました.ヤマサナエは,どこの生息地でも個体数の多いサナエトンボで,産卵も偶然見かけることが結構あります.しかしながら,狙って見つけたことはありません.どこで産卵するか,絞り込みが難しいです.普通に見られるトンボは,どこにでもいるだけに,産卵ポイントを絞りにくい訳です.

▲流れの横の岩の上に止まるオス.

▲湿地の流れの横の草の上に止まるオス.

▲ゼンマイの葉に止まるオス.

▲流れにかかる小さな橋に止まるオス.

▲林の中の細流の横の落ち葉に止まるオス.

本当に流れのそばであればどこにでもオスは陣取っているという感じです.小川のような結構広い川から,水田の用水路,林の中や湿地の細流にまでいます.また時刻も,午前中から午後遅くまで,日向にも日陰にも,あらゆる所に止まっています.そんなヤマサナエは,驚かせると1mくらいの高さに飛び立ち,ホバリングします.

▲川の植生の横に止まっていたオスが飛び上がった瞬間.

▲湿地の流れに止まっていたオスが飛び立った.

▲レキ底の川の横に止まっていたオスの飛び立ち.

キイロサナエではあまりこういった行動は見られません.ヤマサナエ独特という感じです.まあ,今日はヤマサナエの産卵を見ることができませんでしたが,今後の調査の中で出会うことを期待して,今日はこれで終えることにしました.