続 トンボ歳時記
No.568. フタスジサナエが一斉に羽化を始めました.2018.4.20.

今日は,そろそろ羽化を始めるだろうフタスジサナエを見に行きました.朝のうちちょっと用事があったので,現地に着いたのは11時少し前でした.もう気温は十分すぎるくらい上がっていて,羽化の条件としては十分です.早速池に降りてみますと,あちこちにフタスジサナエの羽化殻が着いていました.

▲フタスジサナエの羽化殻.あちこちにたくさん着いていたので,羽化は最盛期を迎えたようである.

▲上がフタスジサナエの羽化殻.下はタベサナエの羽化殻で,分解が進んでいるようで透き通り始めている.

▲今日の観察ポイント.2頭の羽化個体のを加えて,合計6個の羽化殻(黄矢印)が見える.

そして慎重にまわりを見渡してみますと,羽化途中のフタスジサナエがいました.数個の羽化殻が付近に着いていて,この場所は羽化場所としてに好まれているみたいです.羽化している個体はオスでした.この池では,この数年毎年フタスジサナエの羽化を観察していますが,いつも4月の下旬に来ているので,メスの羽化ばかりが目立っていました.今年は少し早いせいか,オスの羽化を見ることができました.

▲10:56.着いたときに羽化途中だったオスの個体.

▲翅が伸びきった.後翅の肛角がとがっているのでオスであることが分かる.

腰を落としてまわりの羽化殻を見てみますと,一つだけ,中身の入っているものがいました.先日タベサナエの時は家に帰ってから写真を見て気づいたのですが,今日は見落とししませんでした.こちらは腰を落ち着けて観察することにしました.毎年のようにフタスジサナエの羽化過程の観察から一年が始まっています.今年もそうなってしまいました.タベサナエかオグマサナエから始めるよう,来年は頑張るつもりです.

▲10:56,羽化殻に混じって中身の入っている幼虫.腹部を反らしており,まもなく殻が割れる前兆.

▲11:02,背中が開裂し,胸部が見え始めた.

▲11:03.盛り上がるように胸部が浮き上がってくる.

▲11:04,複眼が完全に殻から抜けた.

▲11:05,前肢と中肢が抜け,体を後ろの方に反らせるようにして後肢を抜こうとしている.

▲11:26,6本の脚を脇にしっかりと引きつけ,休止期に入っている.休止期は5分間ほど続いた.

▲11:11,突然前に屈曲し,腹部を抜き始めた.

▲11:12,翅の伸張期に入る.

▲11:14,翅はつけ根から徐々に伸展していく.

▲11:22,翅がすっかりと伸び,あとは腹部が伸びきるのを待つ.

この羽化個体はメスで,最初に見つけたオスの羽化個体のすぐ横で羽化していましたので,ダブル羽化ですね.ツーショットをとっておきました.

▲オスとメスの羽化ツーショット.手前がオスで向こうがメス.

なお,いずれの個体も,翅を広げたかと思ったらその瞬間に飛び立ってしまいましたので,翅を広げた写真は撮ることができませんでした.処女飛行に飛び立ったときも,一気に樹上に上がってしまい,後追い撮影はできませんでした.しかたなく,他の場所からも何頭かが処女飛行に飛び立ちましたので,それを撮影しておきました.

▲処女飛行に飛び立ったメスのフタスジサナエ.

フタスジサナエが羽化していたこの池は,先日,タベサナエとオグマサナエが羽化していた池で,この池は珍しく3種のコサナエ属が共存しています.No.512の記事では幼虫で3種を確認したことをお知らせしました.フタスジサナエは,他の2種と羽化する場所もよく似ていますが,時期を少しずらせることで羽化場所をめぐる競争は起こらないようになっているようです.オグマサナエとタベサナエは完全に同じ時期に羽化しています.この池にタベサナエが姿を現したのは昨年です.オグマサナエの数が多くないので,タベサナエに押されて消えないことを祈りたいです.

さて,この池を離れる前に,先日羽化したタベサナエやオグマサナエがどうなっているかを確かめることにしました.周辺を探してみると,オグマサナエは見つかりませんでしたが,タベサナエは3頭ほど確認できました.いずれもオスで,まだ淡色部が黄色でした.繁殖活動を始めるにはまだ少し時期尚早という感じです.来週の曇り続きの日々が終わって晴れのサイクルになったあたりがねらい目でしょう.

▲タベサナエのオス.まだ淡色部が淡い黄色をしていて,うすみどりになっていない未熟個体.

▲タベサナエのオス.樹上に止まってもぐもぐタイム.

▲やはりまだ複眼も透明になっていなくて未熟状態のタベサナエのオス.

このあとは再び成虫越冬種,特にホソミイトトンボとオツネントンボを探しに行きました.いつもの小野市の定点池では,ホソミイトトンボが1頭だけ通り過ぎましたが,成虫越冬種をはじめ,フタスジサナエ,シオヤトンボ,トラフトンボ,ヨツボシトンボ,クロイトトンボなど,4月下旬に姿を見せ始めるトンボの姿が全くありませんでした.ちょっと異様なほど静寂です.水温が低いのかもしれません.

最後に近くの公園に行きました.アジアイトトンボの処女飛行個体をみました.アジアイトトンボはすでに青くなっている個体も通り過ぎました.

▲アジアイトトンボのメス.処女飛行の直後.

これで,コサナエ属4種をすべて確認したことになります.4月20日,結構早い時期に出そろうのですね.まとめとして,これらの羽化殻の写真を並べてみました.みなさんは,どれがどの羽化殻かお分かりでしょうか.腹部第10節の幅に対する長さ(白矢印),そしてこのうちの1種には背棘があります(黄矢印).でも,腹部第10節の幅に対する長さは,1個体だけを見ていてはなかなか区別がつかないものですが,並べて見るとやはり違うことが分かります.標本はこのために必要なんですね.

▲コサナエ属4種の羽化殻.タベサナエ,オグマサナエ,フタスジサナエ,コサナエ,どれがどれでしょう.

さあ,明日も晴れそうです.またトンボを探しに行くことにしましょう.