トンボ観察記
No.518. アサヒナカワトンボの警護産卵.2016.5.7. GW-5

ゴールデンウィークの第5弾(GW-5)は,アサヒナカワトンボの産卵観察です.先日アサヒナカワトンボの産卵を久しぶりに観察して気を良くし,今日は先日の成果を確かめるべく,アサヒナカワトンボの観察に出かけました.ただこれにはおまけがあって,目的の生息地には時々黄色翅のアサヒナカワトンボが出現するのです.兵庫県では最西部と最南部に透明翅でないアサヒナカワトンボの記録がありますが,他の地域にはありません.こういう個体が見つかればいいなぁ,といって期待も込めての観察です.

0507-11▲アサヒナカワトンボのオス.翅がやや色づいているが,これではとても黄色翅とは言えない.

朝からどんよりとした曇りでしたが,天気予報は午後から晴れ.しかし,12時前になっても雲は重く垂れこめたままでした.最近あまり当たらないなぁと感じていたのですが,今日は天気予報を信じて,曇りの中出かけました.現地に着くと薄日が射しはじめ,天気予報に感謝!.翅の黄色いカワトンボを探しましたがこちらは結局見つからずでした.

そうこうしているうちに,2時を過ぎた頃でした.産卵しているメスを見つけました.先日は苦労して産卵を観察したのに,今日はあっけなく産卵個体の発見です.腹部先端を流れの水に沈めて,朽木の水中部分に産卵しています.

0507-12▲アサヒナカワトンボの産卵メス.朽木の水中部分に産卵している場合が多い.

1頭目につくと不思議なもので,次々と目につき始めるのです.あわせて3頭の産卵個体をまず見つけました.観察していると,それらの個体には必ずオスが付き添っているのです.透明翅型のアサヒナカワトンボのオスは,橙色翅型のオスと共存する地域では通常縄張りは形成しないということらしいのですが(東ら,1987),こと,兵庫県の透明翅型オスだけがいる地域ではそういったことはありません.オスたちは激しい闘争を繰り返してなわばりを確保し,縄張り内に入ってきたメスと次々に交尾して,縄張り内で産卵させます.上の写真の産卵メスも,他の1頭のメスとともに,1頭のオスの縄張り内でそのオスに警護されながら産卵していたのです(下の写真).

0507-04▲アサヒナカワトンボの警護産卵.右上のオスが自身が交尾した2頭のメスを警護している.

ということで,その後さらに探索して発見した,警護されながら産卵しているメスを何組か紹介します.かなり近いところで,また少し離れたところで,オスたちはメスの産卵を見守っています.そして他のオスが来たら追い払い,また時々自分の警護下にあるメスの様子を見に近づきます.最初の写真など,仲睦まじいカップルというほど見つめ合って産卵しています.とても微笑ましい,…ですが,実際はオスが止まるところがここしかなかったようです.

0507-01▲アサヒナカワトンボの警護産卵.向かい合って見つめ合いながら産卵.

0507-03▲アサヒナカワトンボの警護産卵.このオスは後方から見守る.

0507-05▲アサヒナカワトンボの警護産卵.右上のオスが,朽木で産卵する2頭のメスを見守っている.

ではここで,最大4頭のメスを囲んだオスの行動を紹介しましょう.最初私が気付いたのは産卵メス2頭だけでした.

0507-06▲アサヒナカワトンボの警護産卵.左のオスが,画面上方と右方で産卵するメスを警護.

そこへ1頭のメスが産卵にやってきました.このオスはすぐにメスを追いかけ,タンデムを形成しました.そしてそのあと同じ場所で交尾態になりました.ふと見ると,そのすぐ向こうで別のメスが産卵していました.そう,これで4頭目のメスを確保したことになります.

0507-07▲産卵に来たメスの上からのしかかってタンデムを強要.

0507-08▲自分の縄張り内で交尾.向こうに自分の警護するメスが産卵している.

交尾は5分ほどで終わり,オスはメスを放しました.メスはどこへも飛ばずにその場所で産卵を始めました.2頭並んでのペア産卵です.

0507-09▲アサヒナカワトンボの産卵.同じオスの恋人たちである.

0507-10▲アサヒナカワトンボの警護産卵.上のメスたちを見守っている.

オスは今交尾した個体と前から産卵していた個体とを見守れる位置に止まって警護を続けています.この位置は,初めに見つけた2頭も見渡せる位置なのです.このオスの右側の位置ということになります.

今日は,アサヒナカワトンボの産卵個体を11頭観察できました.そのすべてにオスが警護をしていました.橙色翅オスと共存する地域でも,これを取り除く実験をすると,透明翅オスは縄張りを形成して産卵警護もすると書かれています(東ら,1987).橙色翅オスのいない兵庫県は透明翅オスにとっては本来の行動ができてきっと生活しやすいのでしょうね.

最後に,流れで活動するアサヒナカワトンボのビデオを紹介して,今日の観察記を終わります.


<参考文献> 東和敬・生方秀紀・椿宜高,1987.トンボの繁殖システムと社会構造.東海大学出版会.