新 トンボ歳時記
No.364 キイロサナエを探しに兵庫県北部へ 2012.6.17.

今日はいい意味で天気予報に裏切られました.雨がたくさん降るとの予報が早くから出ていましたので,今日は一日ごろごろしていようと決めていました.ところが,昨夜あたりの天気予報から,天気が回復傾向にあるとのこと,こうなるともう居ても立ってもいられないという感じで,梅雨時期の貴重な晴れ間を求め,兵庫県北部へキイロサナエを見に出かけることにしました.

第一の観察地は,去年キイロサナエを見つけ,今年も羽化不全のメスを見つけた小川です.現地入りしたのが9:30ころでしたが,もう天気は上々の晴れ.キイロサナエは川に出てなわばり活動をしていました.個体数もそこそこいて,楽しませてくれました.

キイロサナエに混じってヤマサナエも活動をしていました.キイロサナエとヤマサナエが同じ時期に同じ場所でなわばり活動をするというのは,私には新鮮な感じでした.出現時期は確かに重なっていますが,生息環境がやや異なるので,ふつうはだいたいどちらか一方がほとんどを占めるという感じです.しかし,ここはほぼ数も拮抗し,完全に入り交じって活動しています.撮影している私も,どちらを撮っているかすぐには分からない状況でした.

あわよくばキイロサナエの産卵を見たいという気持ちがありましたが,そこまではうまくいきませんでした.一方でヤマサナエの産卵を見ることはできました.ヤマサナエは階段状の水路で産卵をしていました.

川では,コヤマトンボもパトロールをしていました.これはなかなか写真には撮りにくい相手ですが,キイロサナエの産卵を待っている間に,暇つぶしにトライしましたところ,ちょっとだけ写っていました.

この川では,他に,まだニホンカワトンボのメスが生き残っていたり,コオニヤンマ,オオイトトンボなどが姿を見せていました.

しばらくして,少し川から離れて歩いてみることにしました.キイロサナエのメスを探しに入った草地には,ウチワヤンマの未熟なメスがいました.池や湿地にはシオカラトンボ,オオシオカラトンボなどが姿を現していました.シオヤトンボもまだ生き残っていました.この時期だけに見られるシオカラトンボ属3種そろい踏みです.そして,道を歩いていると,なんとムカシヤンマが目の前に現れました.メスです.このあたりでは始めて見るので慎重にカメラを構えようとしましたが,やはり殺気がみなぎっていたのでしょうか,すぐにクリの木の上に飛び去ってしまいました.

さて,こうやってほかのトンボを見ながら,もう一つの目的の池に回ることにしました.今日北部に来たのは,ネキトンボの幼虫を採ることでもあります.

この池では,昨年ネキトンボがたくさん産卵していました.ネキトンボの幼虫は簡単に,たくさん採れました.そして驚くべきことに,もはやネキトンボが産卵にやってきていました.アカトンボ属とは思えない早期の産卵です.しかし山本ら(2009)には,きちんと6月中旬に産卵が始まっていると書かれていて,さすがよく観察がなされていると感心しました.

ネキトンボの幼虫が採れたところで,しばらく池の様子を見ていると,クロスジギンヤンマが産卵に入ってきました.今年はヤンマの産卵を見ることが目標ですので,ラッキーといえます.それにこのメスの個体は,人間を恐れず,ストロボの光も全く意に介さない,非常に「おりこうな」個体でした.ところが,このメスはとんだ災難に遭いました.

産卵中にオスが飛びついてきたのです.オスは頭の方向からメスにつかみかかり,タンデムになろうとしますが,メスは水面に突っ伏し,じっとして災難からのがれようと頑張っていました.オスはすぐに諦めました.メスはしばらく様子を見るべく,水面に伏せた状態でじっとしていましたが,おもむろに飛び立って,場所を変えて産卵を再開しました.

ところが,オスもなかなかしぶとく,再開したメスに,今度は背後から抱きつき,とうとうタンデムを形成して,メスを連れ去ってしまいました.いやはや,メスも大変ですね.産卵はしなければならないし,オスのちょっかいは避けたいし...昔のようにトンボの密度が高かった時代は,メスはどうしていたんだろうと思ってしまいます.

さて,もう一つの池では,ここでもクロスジギンヤンマの老熟メスが産卵に訪れていました.複眼上部に青みがなくなり,緑褐色をしています.また体にもたくさんのシミが出ています.先のメスとはだいぶん違います.このメスは池の中央部にも飛んでいき,ヒシの葉に産卵を繰り返していました.ショウジョウトンボも産卵に入ってきました.コフキトンボはたくさん羽化していて,集団静止が見られました.池はこの時期とてもにぎやかでした.

最後に,この池の近くにアオダイショウと思われる蛇が出現しましたので,ゲストとして登場していただきました.


さて,お昼過ぎまで,また川に戻り,キイロサナエの産卵を待ちましたが,あまりに暑くなってきて,これではだめだと思い,香美町の源流域を最後にのぞくことにしました.

ヒメクロサナエの今年最後の挑戦ということですが,まああまり期待はできません.ここでもムカシヤンマのメスが姿を現し,「あっ」と思った小型のサナエトンボはダビドサナエでした.あとはミヤマカワトンボ,アサヒナカワトンボといったところでした.本当にヒメクロサナエは姿を見ないトンボです.

ここでも恒例のゲスト登場で,最後にナナフシの幼虫さんを紹介しておきましょう.写真を撮ろうと近づくと,ポタリと下に落ちてしまうのです.数匹いましたが,次々ポタリぽたり,トンボ以外の昆虫もなかなかユニークなキャラをしています(笑).

まあ,こんな一日でしたが,中身は結構濃かったような気がします.この時期独特の春のトンボと夏のトンボの同居状態を満喫できましたが,確実に春のトンボは姿が減っていると感じました...