兵庫県の幼虫ガイド
H043. クロサナエ Davidius fujiama
クロサナエ終齢幼虫
写真1.クロサナエ終齢幼虫(しゅうれいようちゅう).全長21mm前後.2008.4.6.
<特ちょう>
 クロサナエはサナエトンボ型の幼虫です.翅芽(しが)がまっすぐ後ろにのびず,少し左右に開いているのが特ちょうです.腹の横のとげ(側棘:そっきょく)は第7−9節にあります.背中のとげ(背棘:はいきょく)はありません.触角(しょっかく)は平たく少しはばがあります.

クロサナエのそっきょくとはいきょく クロサナエとクロサナエ
写真2.腹部の第6−9節に側棘があり,背棘は目立ちません. 写真3.触角は棒のような形で,翅芽はまっすぐ後ろに伸びます.


<よくにた幼虫との区別>
 クロサナエによくにた幼虫に,ダビドサナエヒラサナエがいます.まずヒラサナエは,兵庫県では北部にある高い山の湿地(しっち)にしか住んでいませんので,兵庫県の中ほどや南の方の川で見つけた幼虫はたいていヒラサナエではありません.ただ,クロサナエのいるような上流は,湿地とつながっていることがあって,そんなときは,ヒラサナエの住んでいる場所にクロサナエが入りこむこともあります.ただしそんなときでも,ヒラサナエには,頭の後ろ角に突起(とっき)があり,クロサナエにはそれがないので,割合簡単に区別できます.
 それに対して,ダビドサナエとの区別は,トンボのことをよく知っている人でもまちがえるくらい,とても難しいのです.ただ,オスの場合は,ルーペや顕微鏡(けんびきょう)を使って,腹部の第10節を見ることで区別できます.写真4のように,ダビドサナエ肛上片(こうじょうへん)とよばれる腹部の先の三角形の部分に,まるいイボのようなものがついています.クロサナエでは,このイボが,少し後ろにのびるような形になっています.
 しかしメスには,このイボのようなものがありません.これ以外の区別点としては,写真2のように,クロサナエでは,腹部の第9節の左右に,白っぽい色の部分を持つ個体が多いです.ダビドサナエには白っぽい部分ができることはありません.でも,この白っぽい部分を生じないクロサナエもいますので,はっきりとした区別点にはなりません.さらに,腹の横のとげ(側棘)が,クロサナエでは先がするどく,ダビドサナエでは先がややまるくなっている,という区別点がありますが,これもなかなか判断が難しいです.

ヤマサナエの産卵場所.
写真4.ダビドサナエとクロサナエの肛上片の上にある,イボのようなものの形のちがい.
 もう一つ,クロサナエといっしょによく採れ,まちがえやすい幼虫に,ヒメクロサナエがいます.ヒメクロサナエは,翅芽が左右に開くことなく,まっすぐ後ろにのびていますので,区別できます.くわしくはヒメクロサナエのページを見てください.


<さがす場所のヒント>
 クロサナエは川の住人です.とくに木々におおわれた上流のせまい流れを好んでいます.ただ幼虫は大雨などで流されることがありますので,もう少し下流の,はばの広い川でも,ときどき見つかることがあります.石の間にたまったわずかな砂や落ち葉の中にもぐりこんで生活しています.メスは,うすぐらい上流の流れのそばの,コケの生えた石の上や,岸の土の上で,飛びながら卵をばらまきます.

クロサナエの産卵場所.
写真5.うすぐらい上流の,コケや草が生えた石の上で卵をうむクロサナエのメス.