トンボノート
No.785. やっと出会えたセスジイトトンボ.2021.5.30.

今日で大雨が降って三日経ちました.いくら何でももう水は引いているだろうということで,川へ出かけることにしました.アオサナエが一番の狙い目ですが,昨日ロケハンしたところにはいる気配がなく,近くで道路工事をしていて,工事の人が写真を撮るのをじっと見ていたりするので落ちつかず,別の所にしました.例年アオハダトンボを見に行くところです.

行く途中,以前から気になっていた,小さな支流に入ってみました.そのときはダビドサナエとニホンカワトンボがたくさんいたのです.しかし,今日はどちらもまったく姿がありませんでした.いなくなったのかも知れませんが,環境は悪くなっているようすもないので,もう時期が終わったのかも知れません,明後日から6月ですから.それにしても今年の春のトンボは姿を消すのが早いように思えます.代わりにヤマサナエがぽつんと1頭だけ止まっていました.近づくと飛び立ち,こちらを見てホバリング.いつものヤマサナエの行動です.

▲石の上に止まるヤマサナエのオス.成熟している.

▲私の気配で飛び立ち,ホバリングしてようすをうかがっている.

▲今年はこの頭部・胸部のアップで攻めてみようかと思っているが...(笑)

さて,少し寄り道をしましたので,現地到着は9:00過ぎになりました.川にはヨシが背の高さぐらいまで茂っていて歩きにくかったです.でもトンボにとっては川面を隠す壁になっているので,いい感じではあります.ここは例年アオハダトンボが5月下旬にはたくさん活動をしているところなので,川を歩くと,アオハダトンボが飛び出すのを期待しました.でも全然姿が見えません.

変な感じを抱きながら川をさかのぼっていくと,足下をセスジイトトンボのメスが通り過ぎました.セスジイトトンボがいる!.そこで,産卵基質になりそうな,草が垂れて水に洗われているような場所へ行ってみました.なんと,タンデムになっているペアを見つけました.にわかに色めきだちました.セスジイトトンボを見つけて色めきだつとは,自分でも時の流れによる変化を感じます.最近本当にセスジイトトンボが見当たらないのです.以前なら,「ああ,セスジか」といって,記録用に写真を1,2枚撮って終わりというのがふつうなくらい,無視する存在でしたのに….タンデムペアは,移精行動を行い,交尾をして,産卵を始めました.



▲移精行動を行うオス.セスジイトトンボでは初めて見るかも知れない.

▲セスジイトトンボの交尾.

▲その後産卵を始めたが,長続きしなかった.

このセスジイトトンボのペア,私が殺気立っているのを感じているのでしょうか.落ち着きがなく,すぐに産卵を止めて,水面ぎりぎりを飛んで下流の方へ去ってしまいました.まあ,まだ来たばかりですから,その後に出会えることを期待して,他のトンボたちを探すことにしました.

今日一番目だったのはアオサナエでした.産卵に来るメスに出会えるかもしれないという期待が持てました.でも,砂礫粒が細かく,浅い流れの,産卵に一番良い場所にはきちんとオスが止まっています.人間の考えることとオスの考えることは同じです.でもこれはある意味私の感覚がトンボと同じになっている証拠です.

▲私が産卵に来そうだと思う場所の近くに止まっているアオサナエのオス.

このあと,少し動きまわって,アオハダトンボやグンバイトンボを探してみることにしました.アオハダトンボは,今のところ,オスが1頭止まっているのを見ただけです.

▲最初の地点で姿を見かけたアオハダトンボはこれ1頭だけであった.

川を流れに沿って移動すると,アオサナエはあちこちに止まっていました.







▲川を歩いていて出会ったアオサナエのオスたち.

アオサナエ以外には,タベサナエの生き残り,グンバイトンボ,オジロサナエの処女飛行,コオニヤンマの羽化などに出会いました.ワンド状の水の流れが滞っているところでは,クロイトトンボがたくさんいて,クロスジギンヤンマが飛んでいたり,シオカラトンボも活動していました.クロイトトンボは格別数が多かったようです.一方でセスジイトトンボは見当たりませんでした.

▲タベサナエのメス.どうも産卵していたみたいだった.

▲オジロサナエは3頭ほど処女飛行に飛び立つのを見た.

▲グンバイトンボは,このオス1頭だけしか出会わなかった.

▲コオニヤンマの羽化.もう1頭いたが,気づく前に飛び去られてしまった.



▲本日いちばん個体数が多かったクロイトトンボ.

他の場所は,まだ水が若干多いせいか,深く流れも急で,あまりいい感じではありませんでした.しかし,アオハダトンボには,1頭のオスに出会っただけで,まったく活動している姿がありませんでした.私のサイトのアオハダトンボの記事は,半分以上ここで観察したことをもとにしています.この川も,アオハダトンボが姿を消す時期が来たのでしょうか…,今年だけの個体数変動ならいいのですが.

さて,最初の場所が一番良さそうなので,戻ることにしました.戻ると,セスジイトトンボが飛んでいました.朝来た時よりほんの少し数が増えている感じです.



▲セスジイトトンボのオス.ここのセスジイトトンボ後頭条が目立たない.

オスを撮っていると,少し下の方で産卵しているペアがいました.これ,最初に見失ったペアかも知れません.セスジイトトンボの産卵を見るのは本当に久しぶりです.次はいつ見られるかも分からないので,カメラのビデオ機能で,動画も撮っておきました.また「兵庫のトンボ二十年」の改訂版に使えそうです.

▲流れに洗われる草に止まって産卵するペア.横目でオスがにらんでいるのか?





▲産卵するセスジイトトンボのペア.一番下はビデオからのリッピング.

セスジイトトンボは,オスをのべ5頭,メスをのべ3頭見かけました.いやはや,今日,川へ行こうかどうか少し迷いはあったのですが,来てよかったです.しかし何度も言いますが,セスジイトトンボでこんなに喜ぶとは,…,本当にトンボが少なくなったのを実感せずにはいられません.

さて,そろそろ12時が近くなっています.終わろうかと思ってふと遠くを見ると,アオハダトンボが産卵をしているのを見つけました.



▲アオハダトンボの産卵.今日初めてメスを見た.

そこへ,もう1頭メスが入ってきました.ダブル産卵です.入ってきたメスをオスが見逃すはずもなく,早速ディスプレイを行って,交尾を試みます.





▲一連のディスプレイと移精行動まで.この後交尾したがすぐ終わってしまった.

▲あとのメスは,交尾後別のところで産卵をした.

まあ,アオハダトンボの活動も見ることができ,少しはほっとしました.しかしアオハダトンボとグンバイトンボという,だいたいセットになっているトンボが,この川から減少していることは,やはり不安です.かつての産地でも,流れの石などにラン藻のような灰褐色の藻がつき始めてしばらくしたあと姿が消えました.ここの川もそんな感じです.来年の復活を期待しておきましょう.

ということで,今日はお昼過ぎに活動を終えました.