トンボってどんな生き物?
トンボのグループ分け
 トンボのなかま(トンボ目(もく))は,世界に5,500種類くらいいるといわれています.そしてそれらのトンボは大きく次の三つのグループに分けられています.
  1. 均翅亜目(きんしあもく)(均翅類とよぶことにします)
  2. 不均翅亜目(ふきんしあもく)(不均翅類とよぶことにします)
  3. ムカシトンボ亜目(むかしとんぼあもく)※1(ムカシトンボ類とよぶことにします)
均翅類とムカシトンボ類のなかま
不均翅類
トンボの三つのグループの代表的な種類(科のグループ)
 均翅類(きんしるい)は,ふつうイトトンボとかカワトンボとかいわれているなかまです.4枚のはねの形がほぼ同じで,腹部も細く,弱々しい感じです.全部ではありませんが,はねをたたんで止まる種類が多く,4枚のはねが重なります.

 不均翅類(ふきんしるい)は,ふつうトンボとかヤンマとかいわれるなかまです.前後のはねの形がちがっていて,特に後ばねのつけねの部分が幅広くなり,角ばっています.また腹部は太く全体にがっしりとしています.はねはほとんどの場合,広げて止まります.

 ムカシトンボ類(ムカシトンボるい)のトンボは,生きた化石といわれ,世界にたった3種類しかいない,めずらしいなかまです.世界で,日本とヒマラヤ,中国だけにいます.最近中国と同じ種類のものが北朝鮮でも見つかったといわれています.このトンボは,はねが前後とも同じような形をしていて均翅類に近く,腹部はがっしりしていて不均翅類に近い,ちょうど中間的な形をしています.三畳紀(さんじょうき)という今から2億年くらい前の地層から,このなかまの化石が出ることで有名です.
均翅類のニホンカワトンボ 不均翅類のムカシヤンマ
均翅類のニホンカワトンボ
翅をたたんでかさねて閉じる
不均翅類のムカシヤンマ
翅を広げたまま止まる
均翅類のアオイトトンボ 不均翅類のコヤマトンボ
均翅類のアオイトトンボ
翅を広げて止まるものもある
不均翅類のコヤマトンボ
翅を広げてぶら下がるように止まる
ムカシトンボ類のムカシトンボ ムカシトンボの幼虫
生きた化石,ムカシトンボ類のムカシトンボ
翅をたたんで止まることが多い
ムカシトンボ科のムカシトンボの幼虫
 



トンボってどんな生き物?
産卵と卵の時代,そして冬越し
 卵をうむことを産卵(さんらん)といいます.トンボはいろいろな方法で産卵します.産卵のくわしいことは別のページで解説しています.
ナツアカネの空中産卵 不均翅亜目のサラサヤンマ
ナツアカネの空中産卵
矢印の先の白い点が落下する卵
コノシメトンボの打水産卵
水面に直接産卵する
アオイトトンボの植物内への産卵 不均翅亜目のサラサヤンマ
アオイトトンボの植物内への産卵
産卵管で植物内に産みつける
ミヤマカワトンボの潜水産卵
全身を水中に沈めて産卵している

 卵から次の世代の幼虫が出てくることをふ化(ふか)といいます.卵は10日くらいでふ化するものから,100日以上かかるものまであります.ふつう,卵で冬を越すものは冬眠(とうみん)するために,卵の期間が長くなっています.

 卵で冬眠するトンボには,アキアカネなどのアカトンボのなかま(正しくはアカネ属といいます),アオイトトンボのなかま,ルリボシヤンマのなかま,カトリヤンマなどがいます.これらのトンボは,春に冬眠からさめると幼虫がふ化し,アカトンボやアオイトトンボやカトリヤンマは100日前後で羽化(うか)して親のトンボになります.ルリボシヤンマのなかまは寒いところに多いので,幼虫でさらにあと何度か冬を越すのがふつうです.

 それ以外のトンボは,ほとんどが幼虫で冬を越し,春から初夏にかけて親になります.日本では3種類だけ,成虫で冬を越すトンボがいます.ホソミイトトンボホソミオツネントンボオツネントンボです.


トンボってどんな生き物?
幼虫の時代
 幼虫はふつう水の中でくらしています.9〜14回くらい皮をぬいで(これを脱皮(だっぴ)といいます),羽化します.幼虫でいる期間は,短いもので1カ月あまり,長いものでは5〜8年という記録があります.

 幼虫はえらで呼吸をしています.均翅類の幼虫は,腹部の先に尾さいとよばれる3枚のえらがあって,それで呼吸をしています.これが取れても生きていますので,その役割についてははっきりしないところがあります.ムカシトンボ類(上の写真)と不均翅類の幼虫にはそれがありません.これらのえらは直腸(ちょくちょう)とよばれる肛門のすぐ内側のところにあります.おしりから水をすいこんで呼吸をしているのです.ですから空気をすうために水面に出る必要がありません.しかし反対に,水の中の酸素がなくなると死んでしまいます.よごれた水の中では生活ができないのです.
ナツアカネの空中産卵 不均翅亜目のサラサヤンマ
ベニイトトンボの幼虫(均翅類)
腹部先端に3枚の尾さいがある
ヤブヤンマの幼虫(不均翅類)
尾さいはなく腹部の先には突起がある

 幼虫にはいろいろな形をしたものがあります.これは水の中でまわりの状況にとけ込んで,魚など,トンボを食べる生き物に見つからないようにうまくかくれるためです.トンボは幼虫も成虫も肉食です.幼虫の時代には,アカムシなどの小さな昆虫を食べています.

 トンボにはさなぎの時期はありません.不完全変態(ふかんぜんへんたい)をする昆虫です.


トンボってどんな生き物?
羽化
 幼虫から成虫が出てくることを羽化(うか)といいます.トンボの羽化には大きく分けて二つのタイプがあります.
フタスジサナエの直立型羽化 ハネビロエゾトンボの倒垂型羽化
フタスジサナエの直立型羽化 ハネビロエゾトンボの倒垂型羽化

 一つは直立型(ちょくりつがた)といって,上半身を出すときにまっすぐ立ち上がるタイプです.このタイプの羽化をするものは,地面や岩の表面などで羽化することができます.

 もう一つは倒垂型(とうすいがた)といって,上半身を出すときに,後へ大きくのけぞるタイプです.このタイプの羽化をするものには,植物の茎のような「つかまるもの」が必要です.ですから,何もないプールのような所ではうまく羽化できません.


トンボってどんな生き物?
成虫の時代
 トンボは羽化をすると,しばらくの間水辺を離れ,林や草原で生活をします.この間,主に餌をとってくらしています.そして成熟すると,水辺に帰ってきます.このとき,必ずしも羽化した水辺に帰ってくるとは限りません.かなり離れた所まで移動する種類もたくさんいるのです.ですから,トンボには,自分で次の世代をはぐくむ場所をさがす能力を持っています.

 成熟して集まったトンボたちのうち,水辺にいるトンボはほとんどがオスです.オスはメスがやってきそうな場所でなわばりを持ちます.他のオスがなわばりに入ってくると,これを追い払います.メスがやってくるとこれをつかまえてタンデムになり,続いて交尾(こうび)します.交尾が終わるとメスは産卵を行います.こういった活動をまとめて,繁殖活動(はんしょくかつどう)といいます.
羽化してしばらくの間は水辺を離れる 水辺に集まるトンボは主にオスである
草原で生活する未熟なタイワンウチワヤンマ
羽化してしばらくの間は水辺を離れる
水辺に止まるオオキトンボのオス
水辺に集まるトンボは主にオスである
ルリイトトンボのタンデム フタスジサナエの交尾
ルリイトトンボのタンデム フタスジサナエの交尾

 トンボの成虫は,飛ぶことにかけては天才的な能力をもっています.交尾の姿勢も,このようになっておれば,オスもメスも飛ぶ方向に頭を向けることができ,すばやく飛べます.ほかの昆虫では腹部の先をくっつけると頭が逆方向になるものが多く,交尾中はうまく飛べません.

 同じ位置で停止飛翔(ていしひしょう;ホバリングともいいます)したり,急に向きを変えたり,ある時はバックしたりします.多くのトンボは飛ぶときに前ばねと後ばねを交互にはばたかせています.
交尾状態で飛翔するトラフトンボ 翅を前後交互に羽ばたいてホバリングする
交尾状態で水面近くを飛翔するトラフトンボ
 
ハネビロエゾトンボの停止飛翔
翅を前後交互に羽ばたいてホバリングする

 大きな目は,飛びながらエサを見つけるのに適しています.空を飛ぶ小さな昆虫を見つけ一気に近よって,食べてしまいます.クモは多くの昆虫の大敵ですが,トンボの中には巣をはっているクモをつかまえて食べるものがいます.

 トンボが空を飛ぶ動くものに近よるという習性を利用してつかまえるのが,「とりこ」とか「ぶり」とかいわれる方法です.私たちの子どものころは,60cmくらいの糸に両端に小さな石を結びつけ,それを銀紙でつつんだ「ぶり」を用意し,夕方,ヤンマの飛ぶ前方に放り投げて,エサと思って近づいたヤンマが糸にからまって落ちてくるのをつかまえました.
飛びながら獲物を見つける大きな目 ぶりで捕らえられたヤブヤンマ
ヤブヤンマ
飛びながら獲物を見つける大きな目
ぶりで捕らえられたヤブヤンマ
糸がからまっている