デジタルトンボ図鑑−羽化殻編
トンボ上科/エゾトンボ科 検索表
 エゾトンボ科幼虫はトンボ科・ヤマトンボ科・ミナミヤマトンボ科幼虫とはっきりとした形態的区別のつけにくい分類群である.かつて,ヤマトンボ科がエゾトンボ科に含められていたという状況の下で,日本産のエゾトンボ科幼虫について他科と区別する形質がいくつか挙げられてきた.それらをまとめると,(1)尾毛の先端位置が肛側片の先端位置の50%を越えること(トラフトンボを除くと60%を越える),(2)触角第1節と第2節の合計長が,第1節基部内側から正中線までの距離と同じかより長い(Norling,1997)こと,(3)下唇側片前縁の鋸歯または歯列の切れ込みが深いこと,(4)(後肢)腿節の長さが頭幅長を越える(井上・谷,1999)こと,の4点である.
 しかし(1)については,例えばトンボ科ハネビロトンボ属の尾毛先端位置の肛側片先端位置に対する割合は約68%程度あり,その他ウスバキトンボ,チョウトンボ属などのそれも50%を越えており,エゾトンボ科だけの形質ではない.さらにヤマトンボ科も該当する.(2)については,ヤマトンボ科も同様の形質を持っている.(3)については,エゾトンボ科よりヤマトンボ科の幼虫の方がこの切れ込みははるかに深い.またエゾトンボ属のものは他の群に比べると浅く,トンボ科との区別が曖昧になってしまう.一方トンボ科のウスバキトンボはこの切れ込みがかなり深くタカネトンボ以上である.(4)については,ヤマトンボ科は明らかにこの形質を有し,トンボ科にも(後肢)腿節の長さが頭幅長をわずかに越えているものがかなりある.
 以上より,トンボ上科内のエゾトンボ科幼虫だけに有効な単一のキーが存在しないといえる.しかし(2)については,ヤマトンボ科が同じ範疇に入ってしまうものの,(4)の形質で,ヤマトンボ科は後肢腿節長が頭幅長の1.4倍を超え,エゾトンボ科は1.4倍を超えないという区別点があるので,今のところ,以下のような形質をエゾトンボ科の特徴としてまとめることができる.すなわち,「触角第1節と第2節の合計長が,第1節基部内側から正中線までの距離と同じかより長く,後肢腿節長が頭幅長の1.4倍を超えない」ことである.
検索キー00
a.触角第1節と第2節の合計長pが,第1節基部内側から正中線までの距離rと同じかより長い.
b.後肢腿節長fが頭幅長hの1.4倍を超えない.
  a,b.タカネトンボ.
検索キー01
01.複眼後方に1対の小さな突起がある(a).明瞭な背棘が第2腹節にある(b).・・・トラフトンボ属
− 複眼後方に突起は見られず(c),かつ第2腹節に背棘がない(d).・・・02
  a,b.トラフトンボ,c,d.タカネトンボ.
検索キー02
02.側棘が第8,9腹節にあり(c)かつ背棘が「大きく(b:矢印)」少なくとも第4−9腹節にある(b),または側棘も背棘もなく体表面が長い毛でおおわれている(a:矢印).・・・エゾトンボ属
− 側棘が第8,9腹節にあり(f)かつ背棘が「小さく(e:矢印)」多くても第5−9腹節にしかない(e),または側棘が第8,9腹節にあり(f)かつ背棘はないか隆起状の突起がある程度(d:矢印),・・・03
var.杉村ら(1999)には,リュウキュウトンボの背棘が第4−9腹節と記されているので,第4腹節に背棘のある個体がいるのであろう.したがって,背棘配置よりその大きさを優先して判断すること.
a.クモマエゾトンボ,b,c.ハネビロエゾトンボ,d.カラカネトンボ,e,f.ミナミトンボ.
検索キー03
03.腮刺毛が12−13本程度で,長毛群から短毛群への移行部分に特に間が空かず連続して生えている.側刺毛は8,9本程度.・・・カラカネトンボ属−カラカネトンボ
− 腮刺毛が多くても11本程度までで,長毛群から短毛群への移行部分に少し間が空く(矢印).側刺毛は5本程度のものと,7,8本持つものとがある.・・・ミナミトンボ属
  a.カラカネトンボの下唇前基節,b.ミナミトンボの下唇前基節.